【第2部 自由研究発表】
「時間貯蓄制度からみる都市コミュニティの形成
~タイムダラーと地域通貨との比較を通じて~」
東洋大学大学院 孫 彰良
本報告は地域住民が持つ生活の諸ニーズに対し、他の住民が持っている技能や知識や時間などをサービスとして提供することにより、相互扶助が複線化、継続化することにより都市コミュニティの再生を考えることを目的としました。
その手法としてこれまで行われてきた時間貯蓄制度は、必ずしも普及していません。先行調査を分析すると、協力者本人が利用できるまでに長いタイムラグがあること、将来のサービス提供が必ずしも保障されないこと、需給にミスマッチが起きる可能性があるなどの短所があり、これらが時間貯蓄制度の普及を阻んでいると言えるでしょう。
そこで、これの欠点を補完する手法として、世代間にわたらず、現時点で異世代間で時間を相互に使い合うタイムダラー制度、及び互いに助けられ支え合うサービスや行為を交換するシステムとしての地域通貨制度を提案します。それらの特徴を比較すると、三制度はそれぞれに補完し合う部分があります。地域のニーズは多様化・複雑化しており、それに対応する制度として、これら三制度を連携することにより、都市コミュニティの再生に役立てる可能性があると言えるでしょう。
「多摩ニュータウン在住の子どもの生活時間」
東京学芸大学大学院 志茂 和賀子(発表者)
大竹 美登利
人間関係を作れない子ども、学びからの逃避など、現代の子どもたちの諸問題がさまざまなところで語られています。本研究では、東京の典型的なサラリーマン家庭が住む多摩ニュータウンにおける子どもの生活時間の実態をとらえ、そこから今日の子どもたちの生活の問題を探ることを目的としました。
多摩ニュータウン在住の323世帯の全員を対象に、2000年10月1日から15日の平日、土曜、休日の3日間の時間を調査したデータのうち、本報告では0歳児から高校生までを分析しました。
その結果、①家事的時間や学業時間は年齢が高くなるにしたがって増加し、余暇的時間は減少すること、②平日・土曜・休日別では、学業時間が減少する土曜・休日は家事的時間や余暇的時間が増加すること、③「一緒に居た人」別では、就学前では母親を主とする家族と過ごす時間が長く、年齢が高くなるにつれ知人や一人の時間が長くなること、④休日では、3歳未満から小学生では家事や余暇を家族と行う時間が多く、中・高生では一人の時間が多いことが明らかになりました。
「情報と住民参加の可能性について
~多摩ニュータウンの調査から~」
駒澤大学大学院 白男川 尚(発表者)
渡辺 裕一
多摩ニュータウンでは、NPO活動等の住民参加活動が盛んに行われています。しかし、そのような活動の情報が住民に伝わっていないのが現状であると考えられます。
そこで本研究は、住民の地域情報のとらえ方を明らかにし、その情報と住民参加の関係を検討することを目的として、多摩ニュータウンN町に在住する住民を対象に行いました。
今回の調査では、「市の広報」「コミュニティTV」「コミュニティFM」「ミニコミ誌」「地域の回覧」「地域の掲示板」「市のホームページ」等を情報源として調査しました。
NPO団体等の情報発信方法は、インターネットを利用したものに偏る傾向がありますが、今回の調査の分析結果からは、活字による情報源に比べてインターネットからの情報を受け取る人が少ないという問題が明らかになりました。このような現状をふまえたうえで、NPO団体等は情報発信方法を見直す必要があるのではないかと考えます。
地域情報をどのように捉え、分析に用いるかという点と、他の地域との比較をすることが必要であるという点が今後の課題です。
最後に、調査にご協力いただきました、多摩ニュータウン住民の方に心から感謝致します。
「協力の習慣を形づくるものは何なのか
~国内における共有資源管理のネットワーキング事例より~」
中央大学大学院 総合政策研究科博士課程
プロジェクト・ブレーン(株)主任研究員 中庭 光彦
本発表では、共有資源管理の考え方ならびに、その多摩ニュータウン居住者の社会関係ネットワークへの応用可能性を紹介しました。この中で、多摩ニュータウンとは一見無関係に思われる長崎県対馬、京都府伊根・網野町の漁業者の共有資源管理事例と、「総有」「共有」という共同所有権の考え方を紹介し、それが、多摩ニュータウンという共有資源をいかに活かしていくかということを考えるうえで有用な視点を提供してくれることを示しました。
多摩ニュータウンの社会関係ネットワークを共有資源として子どもの世代まで残すならば、「参加」の次に、程度の差はあれ様々な資源のコントロールが求められます。このためには、居住者が多摩ニュータウン地域全体に責任をもちコミットするという「総有的」秩序感覚が必要となります。これに対し「地域への愛着はもちたいが、近隣関係は最小限にとどめたい」という「共有的」感覚が生む居住者側の“参加のジレンマ”は対照的です。このギャッ
プを埋めるための制度設計が今後の課題となるでしょう。
「地域住民との交流を軸にすえた牧場経営から見えてきた多摩ニュータウンの課題
~自然破壊の進行と多摩ニュータウン内での営農の意味~」
多摩ニュータウン鈴木牧場経営 鈴木 亨
自分の仕事である酪農を多摩ニュータウンに位置づけたい気持ちで、多摩ニュータウン学会のドアをたたいたりしました。最初はがむしゃらに自分の存在をアピールすることに努力しているなかで、近くに住む多摩ニュータウン住民との交流を試み、その一つとしてメーリングリストを使った地域住民との会話を始めました。また、多摩ニュータウンのそばで酪農をしていることを多くの方に知ってもらいたいと情報を発信し、少しずつ成果があがっています。
そんななかで、自分の住む堀之内の変貌を感じてきました。多摩丘陵も残り少なくなり、自然緑地や里山の減少が進行するという面では、堀之内寺沢も例外ではありません。このまま何も考えないで進んでしまうと、多摩丘陵の自然がなくなってしまい、農業すらもできなくなります。そんな環境にはしたくありません。この地域では自分ひとりかもしれませんが、なんとか多摩丘陵の自然を保つ取り組みをしようと思い、自分なりに発信しつづけていると、けっこう反応が返ってきています。多摩ニュータウンにはいろんなNPOや地域活動をしている人たちがいて、そんな人たちが里山保全の活動に関わるようになってきました。
牧場に地域の幼稚園や小学校の子どもたちが牛を見にやってきます。多摩丘陵の自然や牧場の良さを知ってもらうだけではなく、人とかかわっていける多摩の自然を地域の人たちで守り育てることが必要だと思います。
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