パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、目下多摩NTで住宅問題や新しい街づくりに関わっていらっしゃる方々からそれぞれの活動のねらいや状況、課題と展望を語っていただきました。

なお、細野助博氏(中央大学総合政策部教授/多摩NT学会理事)のコーディネートによるパネリストとのやりとり内容についても、できるだけ取り入れてまとめています。

●秋元孝夫氏(NPO法人フュージョン長池「夢見隊」隊長)
NPO フュージョン長池での夢見隊活動(コーポラティブ住宅を多摩NTに)は、現在、1号プロジェクトの1棟目の建物が着工し、2003年には残り5棟も着工する。同年7月からは14世帯そろってのコミュニティが始まるが、すでに入居者相互のつきあいも生まれており、当初の目的であった団地型コーポラティブ住宅の完成に向けて一踏ん張りといったところである。都や公団が多摩NT開発から撤退し、実質的に多摩NTの計画的なコントロールができなくなっている感があるが、市民レベルの小規模な開発も含めて、市民参加の街づくりの活動を進めていければと考えている。

多摩NTという大規模な開発は国がリスクをヘッジする形で進んできたのだが、それも限界に達したのが今日だと理解している。ゆえに南大沢周辺は大規模開発ラッシュだが、購入者にリスクを負担させる住宅供給が行われている。反対にすでに開発が終わり20年30年と経過した多摩市のNTエリアでは分譲建物に対する個人の負債は殆ど返済されており、いわば優良資産が蓄積されている地区とも言える。

建物のストックを有効に活用し、不足したものを補って行くことで都市は循環するもので、多摩NTには30年のサイクルが居住者の移動をうまく誘導する要因が生まれ、地域内での人の循環を生み出しているように思える。幸い、多摩NT の建物はコンクリート造で、70年や100年は十分持つ構造になっている。こうした資産が集積した地域はまれで、それも半分が個人資産として団地管理組合という組織が管理している環境は他にはない。つまり、ヨーロッパが石の文化で耐久性能の高い家があることが、住宅が個人資産ではなく社会資産になりうる前提となったように、日本の中でもニュータウンにあってはまさに社会資産の継承が可能なのだと考えている。

●加藤 輝雄氏(諏訪2丁目住宅管理組合 建替え委員会 代表)
高度成長期の都市流入労働者の蓄積地として、国策の一環として東京都と公団によって作られた人工都市に血肉を与え、街としての内容を形成してきたのは居住者であることを忘れてはならない。石原都政は経済効率で都心部・湾岸部に都市再生として規制を緩和する反面、次の展望を提起しないままニュータウン事業の終息を宣言し、ニュータウンを抱える行政は「守り」に入り現状維持に汲々のようにみえる。ニュータウンの個性と優位性を提言し押し広げていく努力を怠ってきたツケがバブル崩壊後の現在急速に回ってきている。

諏訪団地は1971年に入居が始まり、築32年目を迎える。5階建てでエレベーターは無い。640世帯の2割が初期入居者である。環境は非常によく、ここにずっと住み続けたいという希望者は9割を超えており、将来を見据えて建替え問題を10年以上前から検討してきた。しかし、容積率・建蔽率の規制が壁だった。阪神淡路大震災の後に規制が緩和され、98年からようやく実現に向けて動き始めている。住民の意志や経済状況を尊重して「緑重視の建替えゾーン」「資金重視の建替えゾーン」「建替えしばし見送りゾーン」に分け、自立した市民として緑の環境を保全しながら進めたい。

ニュータウン再生にあたっては、決してオールドタウンなどと言わせることなく、「三無世代」「ニューファミリー」「団塊世代」などと言われてきた人々のあり方と知恵をより合わせて、ニュータウンの[個性]と[優位性]を開発していくことが問われていると思う。その意味で、諏訪2丁目の住宅問題はここ特有の問題ではない。諏訪・永山・愛宕など、初期入居地区の住宅問題解決なくして、ニュータウンの展望はないというつもりで取り組んでいる。

●田村 一夫氏(多摩市くらしと文化部 部長)
多摩センターに商業的な魅力を取り戻し、団塊の世代や若者、高齢者たちなど「こだわり」を持つ人たちも集える元気なところにしていきたい。今年は都下最大級のクリスマス・イルミネーションで賑わっている期間、温かい食べ物を提供できるよう実験的にフードカーを設置してみた。駅から続くペデストリアンデッキは道路施設で色々規制があるが、今後お洒落なオープンカフェやヘブンアーティストといった路上パフォーマンスも楽しめる場所にしていけるよう、できるところから実現していきたい。

2002年11月に多摩市は業務核都市に指定された。何をするのかまだ明確には定まっていないが、スピード重視で多摩センターの活性化を機軸としたハイナレッジセンター構想を進めている。多摩には大学や高い専門性、豊な経験を持つ元気な高齢者が多い。NPO活動も盛んな街である。多摩市では、こういった多様な知恵をつないで、例えば地域密着型のコミュニティビジネスを立ち上げる際のサポートや、ビジネスマッチングのハブのような機能をハイナレッジセンターに持たせたい。

市(行政)だけでは限界があるので、大学・企業・NPO・市民協働で実現化していきたいと考えている。10年後の多摩市に期待していただきたい。

●橋本 正晴氏(多摩NPOセンター運営協議会 代表)
ニュータウンは2025年には65歳以上の高齢者の率が25%を越える。高齢化は灰色の将来とみなされているが、人生経験を積んだ高齢者はナレッジ(知能)の塊である。若者には力と行動力があるが、知識の面では高齢者に及ばない。蓄積された知識・人脈を有効に活用すれば、ニュータウンから新しい情報が発信できるはずである。高齢者を元気づかせて知恵を出させる。これから多摩NTを文化・芸術のマイスターや匠の街とする将来像が描ける。

このためには、先ず彼らを病気にしない健康的な街づくりをする。
さらに、近隣大学の若者と協働するバリアフリー・コミュニティを構築する。そして、あらゆる職種の技能、知識を掘り起こす。ニュータウン地域になければ招聘する。作業場、教室は廃校など遊休施設を利用する。現に多摩NPOセンターは廃校を使って47のNPO団体の運営拠点になっている。NPOの強みは、インターネットを使って全国にネットワークを作れること。ニュータウンに居住する多くのIT関係者を結集して多摩を中心に創生ネットワークを構築し、ITを駆使して世界の知恵をも集めて新しい文化芸術・ファッションやあらゆる情報モデルを世界中に発信したい。

●吉岡 俊幸氏(八王子市立鑓水中学校 教頭)
地域融合のシンボルとしての「鑓水地域フェスタ」について報告したい。本校学区域は、鑓水商人などの歴史と誇りを持つ地域、および、ここ数年で他地区から転居された方々が暮らす新しい地域で構成されている。この新旧地域の間に存在する壁、新しい地域の中にさえある「見えない壁」を乗り越え、地域やそこに集う人々が一体感を共有できる機会、児童・生徒の健全育成や社会参加・貢献の場として、フェスタが位置づけられている。

フェスタ実現のため、学校関係では多摩美術大学・都立南大沢学園養護学校・育英高等専門学校・八王子市立鑓水小学校・めぐみ第二保育園、地域からは鑓水町会・鑓水団地・鑓水第二団地(平成11年3月竣工)・パークフィーネ(14年3月竣工)・トミンハイム・絹の道一番街・南大沢コミュニティ、他にも柚木児童館や南大沢テニスクラブなど各種団体や個人に協力を要請してきた。小中高大、すべての学校と市民が手を組んで、地域の元気作りに取り組んでいる。

多摩NTのはずれにある鑓水は、交通アクセスはまだ不十分な地域だが、今、旬で元気がいい。フェスタに来て、観て、味わってほしい。地域の力が結集されている。

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