寿崎かすみ(東京工業大学大学院生)
私は福生という横田基地のあるまちで育ちました。ここ10年程は、世田谷区そして杉並区に住んでいます。実際に多摩NTに住んだことはないのですが、お声をかけていただきましたのでお話させて戴きます。
<子育てのしやすい街とは>
私は今、東京工業大学の博士課程におりまして、まちづくりを専攻しています。全国的に少子化がすすんでいますが、都市部においてその傾向が著しいという状況があります。そこで、少子化の原因が、都市そのものにもあるのではないか、子育てをしにくい要因が都市そのものにもあるのではないかと考え、調査研究を試みました。
原因を調べることで、子育てをしている人、特に乳幼児を育てる人にとって、住みやすいまちとはどのようなものかということを考えたまちづくりをすすめる方法を考えようと思ったのです。
調査では、多摩NTとして多摩市落合、貝取、開発中の稲城市長峰、既成市街地として杉並、この2つの地域で、保育園の子どもを持つ親(主に母親)にインタビューを行い、調査しました。既成市街地として杉並を選らんだのは、私が杉並区に住んでいるという理由からです。
調査の結果、以下のようなことが分かりました。
・ 多摩NT(新しい街)と杉並(昔からある街)のどちらに住みたいと思うかは個人の好みが大きく影響している。
・ 通勤については多摩NTは1時間以上がかなりあるが、杉並はほとんど1時間以内である。
・ 交通手段については多摩NTは公共交通が不便である。市中心部、駅へ行くバスはあるが他の地域へのバスが少ないので車がどうしても必要である。保育園の送り迎えをするために車が2台ある、また子育てするのに車が必需品なので産休中に免許を取った、という話もあった。
・ 多摩市は生活に必要な施設が足りない。(ポスト、病院、商店、銀行など)
・ コミュニティーについては多摩NTは古くからの人間関係はないが、同好会のようなグループは多く、そこに参加すれば人とのつながりは密になる。
一方、杉並は古くからの人間関係があり、旧住民と新住民という区別もあるようだが、新住民も子どもが小学校に入ると父母会・PTA等を通じて地域とのコミュニケーションが行われるようになる。
これらのことから、私は子育てをするときは、古いまちのほうが育てやすいのではないかという結論を出しました。
<つくられた街・多摩NTがかかえる問題>
この調査を踏まえて多摩NTの問題を少しお話しますと、現在の高齢化、少子化による多摩NTの諸問題は、NTを造成するときに、住む人の家族構成、生活パターンなどの条件設定を限りすぎたことがひとつの原因ではないかと思います。
住んでいる人間は年月とともに生活パターンも変化し、高齢化が進んでいます。それにもかかわらず、まち自体は昔のまま、つまりホワイトカラーのサラリーマンに住みやすいようつくった、そのままなのです。
条件設定を限られたものにしたため、まち自体に柔軟性が欠けていて、まちというハードとそこに住む人間、ソフトの間に大きなギャップが生じているのです。これが現在の多摩NTを住みにくいまちとしている大きな要因でしょう。
古いまち、例えば杉並においてソフトとハードのバランスが完全に取れているとはいえませんが、古くからある人間関係で地域のコミュニティーが築かれ、それがまちを変える働きをして住みにくさを補っているのだと思います。
多摩NTの、この問題のひとつの解決法としては、コミュニティーでの人とのつながりを活かして、生活する人間とNTのハードのギャップをうめていくこと、まちを変えていくことが考えられると思います。
しかし、多摩NTのコミュニティーは成熟しているとは言い難いですし、また行政、住民の立場からもこれらの問題を解決するまでにはいたってないので、これからの課題であるといえます。
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