教育から共育へ
~市民連携による新しい「公」の形成~

これまでの「教育」は「官」が用意してきましたが、これからは「共育」という視点で「官」と「民」が協働して、地域に新しい育ち合いの仕組みを創ることが求められているのではないでしょうか。
「市民」が中心をなす「民」で支える「教育から共育へ」の過程を通して「新しい公」の形成を考えるシンポジウムを持ちました。

・開催日時:5月25日(土)13:00~16:30
・開催場所:ベネッセコーポレーション 13階大ホール
・基調講演:義本博司氏(文部科学省 大臣官房行政改革推進室 室長)

・パネラー:永関和雄氏(八王子市教育委員会 指導室長)
      岸 裕司氏(秋津コミュニティ 顧問)
      島内行夫氏(ベネッセ教育研究所 主席研究員)
      荒井正巳氏(由木児童館 指導員)
・コーディネーター:炭谷晃男氏(大妻女子大学 教授)

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【基調講演】

「地域と教育との連携の現状と新たな展望」
  文部科学省 大臣官房行政改革推進室 室長 義本博司氏

1.地域と教育の連携が高まっている背景
 学校教育が「生きる力」の育成を目指して教育改革を推進。学校週5日制の実施、ボランティア活動の推進、新学習指導要領に総合学習(教科学習をベースに調べ学習や体験学習を融合させた内容)を導入した。これにより、地域の人材・資源の活用や協力が不可欠になり、同時に「開かれた学校」として学校には情報公開が求められるようになった。一方、地域社会では、人間関係・連帯感の希薄化への懸念や地域における自己実現の追求から、市民が自分の特技を生かして地域活動を始めるようになった。その場合、学校を中心とする地域の教育・福祉活動は市民にとって参加しやすい機会・場になっている。
 少子化や国立大の法人化などで経営改革を求められる大学では、生き残りのためには地域貢献が不可欠になっている。また財政難にある地方自治体においても、地域の課題解決には大学の知的資源を大いに活用したいところである。

2.連携の現状と新たな展望
 初等中等教育(小中高校)においては、学校の空き教室を使ったNPOの活動や、一定期間の職場体験・ボランティア活動などが始まっている。コミュニティ・スクールの一環として校長職を一般公募したり、学校運営に地域社会が参画・評価する動きも始まっている。
 高等教育(大学)では、学生を地元小中学校にボランティア派遣して教育補助を担ったり、市民講座と大学講義の連携で生涯学習への協力を行うほか、地元自治体や企業・NPOがインターンシップの受け入れを行っている。また、大学・企業・行政・NPOがコンソーシアムを組んで地域の多様な課題解決に乗り出している「学術・文化・産業ネットワーク多摩」のような広域な動きも注目されている。
  (個々の事例詳細は、誌面の関係上割愛させていただきました:ニューズレター編集担当)

3.今後の課題
 教育機関と地域との連携には、両者を結ぶコーディネーターの存在および連携を活発に促すための誘導施策(特に大学と自治体)が不可欠である。前者は、人材養成プログラムを開発して計画的に研修(特に、聖域・聖職とみなされてき学校教員に対して)が求められる。後者については、モデル事業の推進とともに税制措置や規制緩和などにも取り組むべきと考えている。

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【パネルディスカッション】

●八王子市教育委員会 指導室長 永関和雄氏
 市内105小中学校の2,100人の教員には、普通の市民感覚を持った教職者であって欲しいと、常々言っている。①学校インターンシップとして、小中学校に大学生を派遣、②教員免許を持ちながら採用ワクがなく待機中の人材に研修を実施、③市内21大学と連携して、教師に夏期講習を実施、④不登校生徒を対象に午前中は教科学習、午後は体験学習のプログラムを提供し、自分探しを支援するなど、「共育」の試みを展開中。

●習志野市秋津コミュニティ 顧問 岸裕司氏(ビデオ上映あり)
 地域市民で生涯学習の推進活動を秋津小学校で展開中。①学社(学校教育と社会教育)融合教育として、地域のお父さんたちが小学校の飼育小屋を建設、子どもと大人が自然に交流する場になっている。②学校施設の一部をコミュニティ活動の拠点に。それが学校のクラブ活動と融合することで、学校・子ども・地域がそれぞれの資源を持ち寄ってプラスαのメリットを享受。楽しさと知恵の出し方で、誰も負担増することなく「共育」が実現できる。また、これらの活動を通して、PTA役員や町内会会長のようなマネジメント感覚を持つ人材を育成する機能も結果的に持つようになった。

●八王子市由木児童館 指導員 荒井正巳氏
 児童館は幼児から中学生を対象とした施設。児童館で自己完結する体質から、地域とのネットワークで役割を果たして行こうと脱皮中。助産婦・保育士などと連携した「ゆうゆうクラブ」や出張児童館で乳児も含む子育てや学区の学童保育を支援。行政自身も組織内を横の連携で融合させ、受身姿勢ではなく、地域にとって頼りになる存在にしていきたい。

●ベネッセ教育研究所 主席研究員 島内行夫氏(ビデオ上映あり)
 多摩市内の廃校施設を使って子どもたちの遊びと学びの場「永山ちーきち」を毎週土曜日に展開中。スタッフは大学生ボランティア。現状は運営資金を全面負担。これまで学校が担ってきた子どもたちの学びと遊びの場を、今後、家庭や地域など「民」が代わって創っていくには、施設活用など含めてまだ課題が残されている。

●コーディネーター(大妻女子大学 教授 炭谷晃男)まとめ
 「共育」の実現には、学校の地域化と地域の学校化の両面が必要であると同時に、地域のコミュニティ再生が教育のベースとして求められる。「私たちの街・私たちの学校」を創るという意識で、地域の学校・市民・企業などが連携する時代。今回のテーマは話し合って終わりとせず、多摩ニュータウン学会として今後も実践を通して追求していきたい。

★★★ 会場との質疑応答および提言 ★★★

〇地域が教育を担うには、関わる人自身も楽しめる形で自発性を尊重したい。が、継続的に
 安定的に活動していくための「場」の確保やコスト負担の仕組みが必要。学校施設の多目
 的・積極的開放を推進すると同時に、そういう動向について一般人にも情報公開するようお
 願いしたい。

〇学校教育に支障のない範囲で施設開放するのではなく、学校教育の充実のために施設開
 放する発想に転換すべき。

〇学生だけでなく、有能で元気な高齢者パワーをもっと活用すべき。

〇これだけ充実したシンポジウムになぜもっと多くの人が参加しないのか。子どもの教育云々
 前に、大人の教育(意識転換)が必要。帰ったら、周りの人たちに今日の話をしたい。

(文責:ニューズレター編集担当:植月)

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