※第3回研究会はタウンウオッチングとして八王子市にある都市機構の「都市住宅技術研究」を訪ねました。このページでは「多摩ニュータウン研究」第8号から、会員の内原英貴さんが書かれたレポートからテキストを転載しました。「ウオッチング」のページでは木内基容子さんのレポートを読むことができます。合わせてご参照ください。

1.はじめに
2004年7月旧都市整備公団と旧地域振興整備公団の地方都市開発整備部門が一つになり発足したのが独立行政法人都市再生機構で,今回(2005年8月27日〈土〉14時〜16時)見学させていただいたのはその都市住宅技術研究所です.ここでは都市構造の分析,社会・経済の変化に対応した調査研究,循環型社会を目指したまちと住まいづくりの技術開発など,住む人暮らす人の視点にたって安全で快適なまちづくりを進めるための研究が行われています.調査機関,研究機関,試験実験機能,技術開発機能だけでなく展示機能も擁しています.今回見学させていただいた施設を順に追っていきます.

2.KSI住宅実験棟
SI住宅とは集合住宅を,構造躯体(柱・梁等)であるS:スケルトン(Skelton)と構造体以外の内装や設備I:インフィル(Infill)に明確に分け,それぞれの能力をより大きく発揮できるようにしたものです.分離によってスケルトンの耐用年数は100年以上となり,インフィルの交換においても自由度が高まります.そのことによってライフスタイルの変化や生活設備の機能劣化による交換にも容易に対応できるようになります.
今回見学させていただいた機構インフィル型の住居では,水廻りが中央に配置されており,配管の自由度が示されていました.また,天井高をけずることなく電気配線をするためのテープケーブル工法なども見せていただきました.リフォーム時の騒音軽減のための工夫もされていました.普
段の生活において居住性を高めるための研究,インフィル交換時の施行性を向上させるための研究両方が行われています.

3.環境共生実験ヤード
都市環境は都市の発展とともに大きく変化し,ヒートアイランド現象など多くの問題が生じています.この環境共生実験ヤードでは,環境共生技術の開発を目的とした研究が行われています.その一つの取り組みに都市型住宅地においてビオトープを作り出すことがあります.ビオトープビオトープとは「生物生息空間,人工的に作り出された生態系」と言ったような意味で,ここには池約400㎡,緑地約1000㎡,せせらぎ約30mが作られており研究が行われています.また雨水を道路上に水たまりとなること無く地中に浸透させる透水性舗装や,舗装中に水分を吸収させておき,晴れた日に徐々に蒸発することで気化熱を奪い,気温を下げる効果が期待できる保水性舗装などの研究を見ることが出来ました.

4.振動実験棟
都市技術研究所が所有する三次元振動実験台は,地震波を三次元で再現することの出来る装置で,建築構造物,家具,設備等の動的な挙動などの実験が行われているそうです.
ここでは実際にH15十勝沖地震,兵庫県南部地震,新潟県中越地震を体験させていただきました.どれも非常に大きい衝撃でした.近頃は地震被害予想や災害対策等の情報が政府・マスコミ等を通じて伝えられています.そうした情報は有効ではあるのですがやはり実際に体験して,その恐ろしさを改めて認識しました.そうしたこともあってか見学終了後の質疑の時間には多くの方々が地震に対する質問をされていました.

5.集合住宅歴史館企画展示
日本での集合住宅のリーダーである都市機構では蓄積された技術を伝承し,次の世代へ引き継いで行くことを重要なことととらえ,歴史的に価値の高い集合住宅が移築復元されています.パネル等で集合住宅の歴史・変遷を学ぶだけでなく,実際にさわったりして空間を体感することのできる施設です.集合住宅の博物館とでも言ったところでしょうか.
関東大震災後に建設された鉄筋コンクリート造の同潤会代官山アパート,日本住宅公団発足当時の代表的な住宅で“寝食分離”の典型である蓮根団地,機構初期の高層集合住宅である前川國男設計による晴海高層アパート,プレキャスト工法のさきがけとなった多摩平団地.構法の変遷,居住形態の変化を考えながら見たりすることだけでなく,台所や浴室,トイレだけをとって見るのも興味深かったです.

6.居住性能館
ここは住宅にに求められる基本的な性能である遮音・断熱・防水・空間形状・照明・換気・健康性を考えた住宅を実際に体験し,理解するための施設です.
今回我々はユニバーサルデザイン実験室を見学させていただきました.ユニバーサルデザインとは“出来るだけ多くの人が利用可能であるようにデザインすること”であり,障害の有無,老若男女と言った差異を問わずに利用することが出来る設計・工業デザインのことです.そのユニバーサルデザインの視点で設計されたキッチンと,高齢者が生活するためのユニットである楽隠居を見学させていただきました.キッチンは,車椅子の方でも楽に調理,移動できるように高さ,配置だけでなく細部にまで工夫がされていました.また楽隠居の方では,高齢者の生活に対応したユニットの研究が行われています.高齢者の方でも生活に必要としている機能は一様ではなく,それぞれに合った提案をすることが出来るユニットの研究がされていました.ユニットの交換もSI住宅であれば比較的簡単に交換できるとのことでした.

7.おわりに
見学終了後の質疑の際に出てきた質問も大変興味深い物でした.振動実験棟のところでも少し触れましたが,多かったのは地震に対することでした.対策としてはどのようなことが有効なのか,家具の固定はどうすればよいのかなどの質問がありました.また,初期に供給された多摩ニュータウンの集合住宅にエレベータを設置することはできないのかと言う質問がありました.この問題に関しては,深尾精一・首都大学東京教授を中心としたグループによって研究が行われており,国土交通省が開発した階段室型エレベータをさらに進化させた,既存建物に合理的にエレベータを付加する技術を開発し,バリアフリーへの配慮が十分でない住宅ストックの有効活用の実現を目指した取り組みが行われています.詳細はWeb上(http://4-met.org/pdf2005/a11.pdf)で公開されていますのでぜひご覧ください.

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