2004年9月4日(土)、第14回目となるウォッチングはニュータウン区域からちょっとだけ出て、「京王資料館」を訪ねました。京王電鉄のみなさん大変お世話になりました。この回は企画を担当した篠原理事が報告します。
○京王資料館とは
京王資料館(八王子市堀之内)は、平山城址公園の隣接地にある京王電鉄の研修施設の一角にある。同社の社内施設のため特別なイベントを除き、一般には非公開となっている。名称変更(1998年)前の京王帝都電鉄時代はもちろん、井の頭線の前進である帝都電鉄、補助金狙いで建設時はわざわざ線路幅を狭くしたという玉南鉄道(現在の京王線府中以西)も含め、京王電鉄が長年にわたって収集、保存してきた京王、井の頭両線の建設・運行から沿線開発、観光に関連した貴重な資料を整理、展示している。小さなものは記念切符から、大きなものは往年の名車5000系の先頭車両まで、資料はざっと3万点に上るという。
研修施設の管理も兼ねて専任の職員の方が数人常駐されている。今回のウオッチングではマネージャーの田代一成さんと林陽一さんにお世話になった。東京近郊ではJR、東急、東武、東京メトロが一般公開している博物館施設を持っており、京王でも検討課題にはなっているようだが、現在地では建物やアクセスの問題もあり、近い将来実現するというスケジュールはない。
○見学レポート
メーリングリストで木内基容子理事がレポートを寄せられているので、ここではレポートの一部もお借りしながら、ウオッチングを振り返る。
2004年9月4日(土)、それまでの猛暑が緩んで少し過ごしやすくなった昼下がり。京王堀之内駅に集合し、路線バスにて平山城址公園入口下車。徒歩3分で目指す京王研修所に着く。メーリングリストと会報で参加者を募っただけなので、参加者は基本的に学会の会員と家族に限られたが、それでも総勢24人参加、展示資料は小さなものが多かったこともあり、人数としてはちょうど良かった。
▽本物の車両は迫力
まずは研修室で、資料館の概要を聞き、さらに京王グループの紹介ビデオと相模原線開通時の様子が映っている京王線80周年記念ビデオを視聴。その後、屋外に出て展示車両を見学。緑色の塗色が懐かしい3000系の前で記念撮影した。展示車両は3両あり、その横には保線や配電の実習もできるという、信号やポイントが一式そろった線路もあって、臨場感はなかなかもものがある。普段駅などで見るのと違い、すぐ近くで見ると車輪も線路も1つずつがとても大きく見える。ただ、雨ざらしの状態なので、塗装の傷みが激しく、「保存を優先すれば屋根がほしい」と、案内くださった田代氏の弁。
研修所の最も奥まったところにある、ワンフロアの事務所のような建物が目指す資料館である。展示室は2つに分かれ、延べ床面積は600平方㍍という。
▽広重が京王を描く?
入って真っ先に目に飛び込んできたのが京王の歴代社長さんの写真というのが、いかにも社内施設らしいところだが、第1展示室は紙資料が中心。鉄道建設についての年表や戦前の路線計画が分かる地図、各種切符や沿線観光施設の絵葉書、昔の駅舎の写真などが整然と並んでいた。
「これはおもしろいですよ」と紹介されたのが、「大正の広重」と呼ばれた吉田初三郎(1884~1955)による横長の沿線図絵だ。鳥観図の技法を使った絵地図で、極端にまで沿線の名物をデフォルメした手法が独創的。昭和初期の作品では、当時最先端のリゾート地だった調布の京王閣(今で言うスーパー温泉の先駆け)が画面中央にでんと大きく描き込まれ、左上の隅に目を転じると、なんとハワイまで書きこまれているという傑作。吉田は日本全国でこうした名所図会を描き残しており、最近絵画の世界でも再評価されている。別冊太陽「吉田初三郎のパノラマ地図」(2002年)に詳しい。
定期券用の駅名ゴム印や日付回転印など、こまごました物品も多数そろっている。「もう35年以上も前、毎月定期券を買うとき、駅員さんが一つ一つ手作業でゴム印を丁寧に押して定期券を作ってくれるのをワクワクしながら見ていた頃が脳裏によみがえってきました」と木内理事の感想。
▽沿線の開発資料も
第2展示室は、電車の行き先表示板や数十㌢の長さに切って並べた線路の見本、パンタグラフ、列車制御に使われた表示板など大物のほか、京王平山住宅地やめじろ台住宅地開発といった、鉄道以外の副業関連資料も展示している。
正味1時間程度だったが、資料は数が多く、全部はとても見きれない。研究目的なら分野を絞って見せてもらうのがいいだろう。
帰りのバスの時間を気にしながら、最後の見どころである資料館横の「手動踏切」と「手動ポイント」を動かしてみる。踏切は下高井戸駅にあったものと同じ仕組みで、ハンドルをぐるぐる回すと踏切の閉じるロープが上下するしくみ。子どもの力でも回すことができるほど、ハンドルは軽い。一方、線路のポイントは剣道の竹刀を地面に差し込んだような形で、前後に動かすのに力が要るが、思ったほど重くはなかった。
田代さんと林さんにお礼を言い、生い茂った緑に囲まれた資料館を後にした。
(了)
- 投稿タグ
- 多摩NTウオッチング