多摩ニュータウンも30年の歴史を重ね、都市としてのハード・ソフトの両機能が充実してき
てはいるが、反面日本の至る所で見られる、人口学的要因固有の問題も噴出してきている。すな
わち「少子化・高齢化」の進展である。さらに、都市のインフラを支える公的部門の財政逼迫、
開発行為に伴う自然の喪失も考慮しなければならない。
ところが日本は景気低迷の状況を脱しきれないまま起業のリストラや、勤務時間の増加となっ
て家庭を直撃している。多摩ニュータウン在住の通勤者もその例に滞れず、時間的余裕を極度に
削減させ、子育てを中心とした家庭の機能を不十分なものにしつつある。
他方、近隣住区のサービス機能が駅前の集積地に立地する同種の機能に「代替され衰微」を余
儀なくされている。これは、自動車利用によるサービス享受を年齢に関係なく強要することであ
り、環境にやさしい、高齢者にやさしい都市形態に逆行するものでもある。
以上のような諸問題を解決し、「愛着とあこがれ」に満ちた多摩ニュータウンを築き、単なる
居住と消費の都市から脱却し、ビジネスなども活性化される創造型の都市の建設にあたって、広
く人知を結集しなければならない.その準備に逡巡している時間的余裕はないといって過言では
ない。すでに、住民主体の活動は、多摩ニュータウンの各地区で開始されている。それらの活動
を促進し、拡充し、有機的に連結するところに、多摩ニュータウン学会の一つの使命が存在する
と確信する。そして、本部会は「スマート・グロース」という以下で説明する概念設定の上に、
多摩ニュータウンを価値創造型都市に変貌させるための基礎的調査と啓蒙活動を主たる目的とす
る。
2.スマート・グロースとは ・
(1)環境にやさしい開発様式を選択する、(2)官民のパートナーシップを革新的アイディアと情報共
有で推進する、(3)コミュニティの自発性と活性化を軸としたビジネスの展開を促進する、(4)種々
の活動の時間的・空間的多様性を機能以上に重視する、(5)効率性と公平性をともに重視した開
発プロセスをめざす、ことによって、住民にやさしく、環境にやさしく、官民の弾力的な連結性を前提
とする「街づくり」を実現するための開発概念である。