若林(司会):この地域においては、高齢化が急速に進むというのが非常に大きな特徴でございます。そういうことで、平日には元気な高齢者の方々が目立つようになってきております。これらの方は、暇ができましたからこれまでできなかった趣味とか特技、それからボランティアにせいをだす。ということがございますが、仕事をしたいという希望の方は、非常に多いわけであります。そこで、本日は、多摩ニュータウンにおいてどのような仕事、就労の機会があるのかというようなことを、探っていきたいと思います。今日はシンポジウム形式で進めていきたいと思いますがレポーターの先生方をまずご紹介いたします。
松山美保子先生でございます。松山美保子先生は現在大妻女子大学の教授をなさっておられ、高齢化社会論を担当されておられます。高齢化社会研究の専門家でいらっしゃいます。高齢者は、元気なお年寄りの在り方などを研究されておられます。国の色々な委員をやられたり、著書も「産業ジェロントロジ−」以下多数ございます。今日は、国の動きとか、高齢者の能力等について基本的なお話をいただくことにしております。
お隣は木村貴嗣さんでございます。木村さんは、社団法人の多摩市シルバー人材センターの事務局長代理をやっておられます。今日は、シルバー人材センターの仕組みとか、活動についてご説明をしていただく予定でございます。
そのお隣は、栗林登美子さんでございます。シルバー人材センターの会員として実際に働いている経験等をお話いただくことになっています。
そのお隣は、湯口倭雄さんでございます。湯口さんは、この多摩ニュータウン学会の会員でございまして、実際にこのニュータウンのなかで、ビジネスを初めてみたいという事で色々研究をなさっております。その研究の成果をお話いただく予定でございます。それでは、始めに松山先生にお話をお伺いすることにいたします。よろしくお願いいたします。
−松山美保子さん(大妻女子大学教授)−
(65才現役社会)
それでは最初に、シンポジウムのタイトルは、「多摩ニュータウンにおける高齢者の就労問題」というふうになっておりますけれども、これとの関連でまず、国は何を考えているのか、高齢者の就労についていま、どういうようなことを検討しているのか、そして、どういうところに問題があるのか、について10分ぐらいお時間をいただきまして、問題提起をしたいと思います。皆様もテレビや新聞などで、ご存じの方もおおいいと思いますけれども、今労働省を中心として、検討されている高齢者の就労に関する大きな問題は、65才現役社会の構築ということです。つまり、定年を65才にしようではないか。ということですね。それは、10年来、高齢者の再雇用を促進して65才までは、企業に対して雇用してほしい。という考え方が、労働省を中心としてありまして、企業への要請が続けられてきました。ところがつい最近、「65才現役雇用システムを実現するために」と言うパンフができたのですね、かなり具体的な指導方法まで書かれているのですけれども、そういうようなことが突如として言われるようになった。その背景にどのような要因が挙げられているかについてご紹介しましょう。
(3つの要因)
第一番目は、労働力人口が長期的に見ると減少し、労働力が高齢化していくということです。簡単に数字を申し上げましょう。労働力の減少ですが、1996年時点の労働力人口は、6710万人です。その後2000年に6870万人でピークに達し、少子化の影響でだんだん労働力人口が減少してきまして、2025年には6250万人。2000年と比べますと約600万人減るわけです。これが労働力の減少ですね。もう一つ高齢化ということは、色々な物差しがあるかと思いますが、労働省では、総労働人口にしめる60才以上の高齢者の比率がどのように推移するのかを問題にしているのですが、1996年の時点では13.2%、これが2025年には、21.2%で急速に高齢化が進展します。その背景に、若年層、中年層がクラスティクに減っていくということですね。それに対して、高齢者が相対的に増えていくということです。労働力人口の減少と高齢化が進展するというこの二つのことから労働省は、これからに日本全体で「労働力供給の制約が強まる」。したがって高齢者を活用せざるをえないというのが一つの要因でございます。
第二番目は、日本の高齢者の就労意欲は、非常に強いということです。一番新しいデータは、先程のパンフで見ますと総務省の今年の10年1月の調査で、なんと調査対象者の8割以上が65才以上まで働きたいということです。生涯現役を含めています。これが第二番目の高齢者雇用の必要性の要因であります。
第三番目に公的年金の支給開始時期が、ご承知の方も多いいと思いますが、まもなく65才に引き上げられます。これはすでに法律が制定しております。いつから始まるのかが問題ですが、男子の場合は2001年からですからあと1年半ぐらいですね。1年半後には、61才に引き上げられます。それからあと3年ごとに1才づつ引き上げられて2013年には、65才に年金支給が繰延べられる。あるいは引き上げられるということです。
(65才現役社会の実態)
こういう三つの要因が高齢者雇用の必要性として挙げられている。ところがいま言ったこの三つの要因について、私なりに解釈しますと、実は労働省が急遽65才現役社会実現を打ち上げた最も強力な要因というのは、なんのことはない年金なのですね。年金の支給開始時期の繰り下げというのが決まっちゃった。それであわてて65才現役社会というようなことを言い始めた。という印象が非常に強いわけです。それから高齢者の就業意欲については、毎年のように総務庁が調査しています。私が非常におかしいと思うのは、高齢者の能力については全然研究をしない。だから今回の新しいパンフにも高齢者の能力について一切言っていないのです。これは非常に不本意であります。ということで今回の「65才現役社会の構築」という労働省のすスローガンの中には、高齢者の持てる能力、つまり長年の仕事を通じて培われたキャリアとか技術とか知識とかという高齢者の就業能力を前面にだしていないということですね。そして60才定年というのは、私は、60という歴年年令で、労働市場から強制的に締め出すもので由々しいものだと思っているのですけれども、労働者には、そういうような認識いうのがほとんどない。というようなことでこの労働省の新しいスローガンはいかがなものかという感じがするわけですね。ですから私はこれから日本の社会にとって高齢者の活用を図るというその重要なファクターといたしまして、高齢者は、貴重な人的資源であるという側面を重視する必要があると思います。つまり彼らは単に年を取った人というのではなくて、長年の仕事を通じて培われたキャリアがあるり、豊かな知識とか技術がある人ということです。こういうような認識がないと高齢者の活用というのはうまくいかないのではないでしょうか。そして労働省が、そういうようなことをもっと宣伝する必要があります。実際には年を取っても能力は下がらないという調査はあります。アメリカにもありますし日本でも労働省がやったことがありますけれども埋没されてしまった。あまりPRしない。これがとても悲しいことだと思うのです。今日労働省関係の人がいたら申し訳ないのですけれども、労働省というのは、企業に気を使いすぎているのではないかと思うのです。みなさん企業が高齢者のことをなんといっているかご存じですか。第一番目に高齢者は能率が下がる。適応力がない。健康状態が悪いということです。そういう問題をどう解決しているかというのが、労働省の外郭団体の使命みたいなことが書いてあるのですけれど、とんでもない話だと思うのですね。それで、高齢者の職業能力について正等に評価をするような社会意識を育てていくことが非常に重要ではないか、と思うわけです。
(高齢者の就業能力)
日本の例でもたとえば、一、二ご紹介いたしますけれども、「ブルーカラーの加齢と職業能力」の調査があるのですけれども、これは機械工業で働くブルーカラーを対象とした調査です。この調査では生産工程を前処理から始まって機械加工、機械組み立て、電気組み立て、というように細かく分けましてそこにそれぞれに従事している人の能力を、監督者に評価をさせた調査があります。それで結論はなにかというと、年を取っても能力は下がらないということです。工程別に細かく見ると機械工業で基幹的な職種といわれております「機械加工」およびも「機械組立」においては加齢ととともに職業能力が上昇し、60代が最高なのですね。機械工業は中小企業が多いいですから、そういう結果がでているのです。20才代の若者は、きっと経験不足ということで高齢者の能力の半分ぐらいということです。アメリカでも同じような調査が実施されており、その結果アメリカでは1967年に年令ということで差別してはならないという法律「雇用における年齢差別禁止法」ができているのです。ですから人を採用するときには、もちろん年齢で差別されていないわけですね。雇用主は、何才という事を聞いてはいけないのです。だからどういうことで人を採用するかというと、例えばワープロを1分間に何字正確に打てるかという能力を採用の条件にしなければならない。日本では新聞公告で「何才以下の人を求む」という求人募集がほとんどですね。アメリカではそんなことをだしたら違法になるわけです。日本の法律みたいに「努力義務」なんてないのです。その法律ができた背景は何なのか。ホワイトカラーとブルーカラーの加齢と生産性の調査です。ブルーカラーだけの結果をご紹介しますけれど、私達の調査と同じように、年を取っても能力は下がらないということでした。1960年代はじめの調査です。ただ重労働の分野では、65才を過ぎるとやや高齢者の能率は落ちるということでした。しかしながら、65才ぐらいまではどんなに重労働だったとしても働けるという調査結果がだされたわけです。現在アメリカでは、雇用の分野で年令ということで差別をしてはならないことになっています。
(高齢者の能力の再評価)
まず高齢者の就労を考えるなかで非常に重要なこと。高齢者に能力があるということをもっと社会に向けてアピールしなければならないのではないでしょうか。今、司会の方がおっしゃいましたけれど、ほとんどの高齢者が最近は若返っています。これが労働能力とパラレルな関係があるわけですね。つまり若返っているということは、結局は労働能力も予想外に高いということです。ということで、日本で今非常に大切なことは、年を取ること、すなわち加齢と共に職業能力は低下するというような固定観念をこれから払拭していく必要がある。そしてそれは労働省が先に旗振りをしてやっていかなければならない問題ではないかと考えている次第です。