【多摩NTでのインターネットを使った子育て支援】
◆炭谷(司会):多摩NTではインターネットを使った子育て支援が行われていますが、日本は欧米に比べてパソコンの普及率も低いし、インターネットに接続していない人も多いのが現状です。つまり、インターネットを使う人は一部の人ということになります。しかし、このようなインターネットを使った事業は、近年急速に増え続けています。そのため状況は,今後2、3年間で大きく変化していくことが考えられます。
<多摩NTの特殊性とインターネット>
少子化は日本や先進国における国際的な共通の傾向です。この一般的な傾向と多摩NTの少子化の傾向、この両者の問題にはどのような差があるのでしょうか。また、多摩NTという地域の特殊性がこの問題に関わっていると考えられます。
多摩NTという地域は,個人がバラバラで交流が少ないといわれますが、インターネットのようなメディアが大きく影響し、また効果を生むのではないでしょうか。逆に八王子の大和田のような昔からの顔なじみが多く、地域のつながりが強いところでは対面的なコミュニケーションの方が有効であると考えられます。
それでは,そのようにことを念頭に置きながら討論を始めたいと思います。
質問>インターネットを利用した子育てについて
◆藤森:インターネットを利用した理由は2つあります。@家に閉じこもりきりで閉塞的な生活をしている人に外部と接触を持ってもらうためにアプローチする。A今まで子育てに関わることのなかった人(特に父親)が子育てに関わっていく手段になる。この二つの理由はこの多摩ニュータウン特有の子育て支援の形ではないかと思います。
◆鈴木:インターネットはコミュニケーションの1つの道具です。地域交流から情報交換するのも良いことですが、このことは得られる情報が行動範囲や付き合う人によって限られてしまうという側面も持っています。そこで視野を広げるきっかけとしてインターネットの活用があげられます。この利点としては世代、地域、生活環境の違う人たちから、子育てに関する生きた情報が入ってくることです。ですから、地域での情報と幅広い視野で見た情報のバランスが大事になると思います。
質問>今、保育園・幼稚園が選ばれる時代になっていて、そのうえ子どもの数が減っているので子どもの獲得競争が激化して、一番重要な教育の質が落ちるのではないかと不安があるが…
◆藤森:親は最終的に子どもにとって最善のものを選択するようですので、あまり心配する必要はないかと思います。ただし、教育に携わる者は、親が表面的な事柄で、判断していたら子どもに本当に必要なものは何か教える必要はあると思います。
【少子化の問題点】
<少子化の影響>
◆炭谷:少子化が進み、全国の子どもの数は200万人から100万人にまで減少しています。千里NTも少子化の影響で子どもの数が,ピーク時に比べて半分にまで減っているのが現状です。しかし、この地域では学校の統廃合は行われていません。その理由は”学校をなくすと地域社会の崩壊につながる”という考えに基づいています。そのため、学級の数を減らして、学校自体の規模を縮小しても廃校にはしないのです。
少子化傾向は私たちの近くの、町田の団地でも見られますし、もちろん多摩NTでも同じ事がいえます。
少子化により兄弟が少なくなったことで、親は子どもに対して目がよく行き届くようになりました。つまり、子供たちは親の視線を絶えず浴びながら育ちます。このことは親には子育てによるストレスを感じさせますし、子どもにもストレスが溜まります。
<少子化問題の捉え方>
少子化で問題とされることは
子どもの数が減ること自体に焦点が当たりすぎているのではないでしょうか。つまり、子どもの人口が減ることで経済的、人口学的な問題、労働力が減り日本の経済の活性化が失われる、といったマクロレベルでの議論が多いのです。
しかし、少子化で問題が出てくるのはこういったことだけでなく、もっと根元の部分、言い換えると社会を構成する家庭、家族に様々な問題が出てくるのではないかと考えられます。
子どもの数が減ることは子どもの育つ環境が変わり、また大人の環境、家族の環境も変わってくることになります。そこで生じる問題にも触れていかなければなりません。今、一番問題を抱えているのは外部と接触を持つ機会が少ない人たちではないでしょうか。核家族化が進んで、地域との関わり合いも少なく家に閉じこもりきりになっている専業主婦や、インターネット上でも情報交換がない人が大きな問題を持っているのではないかと思います。
質問>現在、少子化により子供たちの環境だけでなく、親たちの周りの環境も変化してきているのではないでしょうか。そこで親たちの環境、特に家族の問題に触れていくことにします。よく子育てと仕事の両立が取り上げられますが、仕事を持っている母親より、今は家に閉じこもりきりの専業主婦の方が問題を抱えていることはないでしょうか。
◆藤森:子育てで一番悩みを抱えている夫婦の組み合わせというのがありまして、それは夫がサラリーマン、妻が専業主婦の核家族です。つまり、この場合母親が困ったときに相談する相手がいないわけです。それを解消するために地域で昔の大家族を再現することが大切です。そのために保育所は積極的に昔の大家族を再現して、地域に浸透させる努力をする必要があります。
【世代間の交流について】
◆炭谷:今回の研究会のメインテーマは”地域から子育てを考える”ことですが、子育てに関する問題は家族のことでもありますが、地域の問題として捉えることが必要ではないかと思います。また、このように話し合う中で、地域で出来る子育て支援はどのようなものか、子育て支援の新しいアイデアが出てくることを期待しています。
<多摩NT内での情報交換>
核家族化が進み、世代間での情報交流が難しくなってきています。多摩NTも例外ではありません。NT内でも核家族化により、情報交換や交流が偏ったものになっています。そこで、他世代との交流をどのような場で、はかるかが問題になります。
交流をはかる場を積極的に持てるのは学校、幼稚園、保育園、社会教育機関ではないでしょうか。これらの機関が地域と一体となって世代間の交流をはかるパイプ役となることが理想です。
◆藤森:このところ育児に関する相談を受ける回数が非常に増えています。母親達は相談に来て、納得する答えを得て帰っていきますが、また相談に来るということを繰り返します。つまり、育児相談で悩みに答えていても、それは表面的な答えしか得られなくて、母親達の本当の悩み、根元の部分を解決していることにはならないのです。これを解決するには地域との交流を盛んにして、地域が一体となって子育てをする環境を整える必要があると思います。
しかし、今はそのきっかけや核、中心となっていくものが地域に存在しないのです。私たち子育てに関係するもの達はそのきっかけとなっていく必要があると考え、サークルやネットワークを作ってはいますが、やはり地域の皆さんが関わっていくことが一番大切だと思います。
質問>メーリングリストで行われる議論はどのようなものが多いのか。
◆鈴木:MLでは、子どもの病気に関する相談
が多く寄せられます。その他には近所付き合い、家族関係(父親と子どもの関係)、育児(特にしかり方)、保育園・幼稚園の情報などの相談、意見交換が行われています。
今の母親達は情報がありすぎて、どこの相談すればよいのかわからなくなっているのかもしれません。そこで、インターネットを通じて仲間からの生きた情報を得ているのではないかと思います。
また、MLでは父親同士での意見交換も盛んに行われるときがあります。母親同士でも、MLでは誰々ちゃんのお母さんという立場ではなくて、個人として意見を発しています。
それから、このMLでは行政に関係している人も参加しているので、子育てをしている人が何を求めているのかが直接伝わるというメリットもあります。このようなことから、実際に子育てをしている人と同じ目線で事業を行っていければと思っています。
<情報交換での重要なこと>
◆炭谷:地域の人々と世代を超えた情報交流をはかるときに一番重要なのは、交流をはかる上での関係をどのように築くかということです。交流を行う場所(コミュニティーセンターなどの建物)より、その場のコミュニケーションをとる空間をどのように作り上げていくかが大切です。
<情報交換の媒介――― インターネット>
今日のお話にあったように、現在は情報交換するときにインターネットなどの情報技術が媒介になることが多くなってきています。これは非常に便利で、効果もそれなりにありますが課題もあります。情報技術を使えない人はインターネット上での情報に接することができず、インターネットを使える人との間に差が生じます。これを情報格差といいますが、この差を埋めていくことが今後の課題です。世代差、性差、職業差、能力差による格差をなくすために、情報リテラシーを高める必要があると考えられます。
質問>核家族が進んでいるなかで、子育てをしている人が他の世代とどのように交流を図るべきでしょうか。例えば、社会教育が対象別(高齢者向け、母親向け)になっているが、このようなところから、年齢、性別の枠を外していく必要があるのではないでしょうか。
◆鈴木:対象を絞った参加者の募り方ではなく、興味がある人が参加するという形式にして世代交流を進める必要があると思う。枠をこえた交流の手段として、インターネットも活用しています。行政としては地域で世代交流ができる社会教育事業を行わなければいけないと思います。
質問>ここでは少子化のデメリットが取り上げられているが、逆に子どもの数が減ることで、子ども一人一人に教育がいきわたるなどのメリットもあると思うが…
◆鈴木:家同士の交流があることが前提となりますが、一人っ子の子どもが増えることで、一人っ子同士が兄弟のように交流していける可能性があると思います。
少子化が進むことで、今までにない子育ての環境も出てくるだろうから、悲観ばかりする必要はないと思います。一番大切なのは子どもの数が少なくても、のびのびと育てる環境が作っていけることではないでしょうか。
◆藤森:子どもの数が減ると親の目が届きすぎて、過保護になるという問題も出てきます。
少子化が進む原因として子育てのデメリットが大きく取り上げられていることもあるので、子どもは母親の社会を閉ざす存在ではなく、社会を開く存在であることをアピールすることも重要です。少子化を食い止めるためには子育ては楽しいというムード作りも大切です。
質問>子育てにおいては女性が重要な役割を担っていますが、今後、男性はどのように関わっていけばいいのか。
◆藤森:母親達が子育てに閉塞感を持つ理由は、ギャラリーがいないこと、子育てをしても評価されることがないことがあります。ギャラリーや評価は、本来は父親であるはずですが、そうでないのが現状です。
また、せいがの森保育園でもお父さん専用のMLを用意してお父さんも子育てに参加してもらえるようにしていきたいと思います。
【総括的な意見】
◆藤森:ここ2、3年で子育ての環境は変わってきているので、私たちもそれに対応していかなければならない。そして、高齢・少子化問題については、お年寄りが子育て支援に関わることも考えていて、八王子市としてはファミリーサポート事業を始めています。これは個人が一時的(数時間)に子どもを預かる制度で、地域で助け合いを進めることにつながると思います。保育園は地域や母親達のコミュニケーションの場として、積極的に行動することが必要です。また、サークル活動なども母親達が自主的に行っていけるように支援しています。私たちは園児だけの保育園ではなく、いろんな人が集まり使えるような場、そして地域の方のニーズに添った保育園を目指して活動しています。
◆鈴木:行政に携わるものとしても、やはり縦割り行政のもどかしさや疑問を感じます。縦割りのために福祉、教育それぞれ似たような事業を行っているわけですが、出来るだけ行政内部で一緒に事業をしていこうと試みています。地域で行政の事業を活かすためには、まず行政内部で情報交換し、協力しながら、それぞれの良さを出した事業をしていく必要があります。子どもがのびのび育ってほしい思いは
福祉、教育それぞれ同じです。これからは、市の施設を利用しようとしている母親達の意見を聞いて、出来るだけ集まりやすい雰囲気をつくり多くの人に施設や事業を活用してもらえればと考えています。
【最後に】
<研究報告について>
◆炭谷:今日、お話しをしていただいたお二人の試みは、新しい情報技術を使ったものであり、今後の成果に期待するとともに、研究大会でも報告していただければと思います。
鈴木さんの報告の中でMLでは誰々さんのお母さんという立場ではなく、個人として意見を述べることが出来るということがありましたが、これは面白い現象であるし、男性ではなかなか気づかないことでもあり、新たな発見でした。メールでの情報交換は多くのメリットがある一方で、プレーミング現象というメールを通してのいさかいも、ときには起こります。このようなデメリットもあるということも頭の片隅に置いておく必要があるかもしれません。
<ライフコースと子育て・少子化問題>
少子化・子育ての問題は、今後の研究会で取り上げる女性の就業、高齢化、まちづくりの問題とも関係してきます。そのような理由から第1回の研究会では少子化・子育ての問題について考えました。
かつてはライフサイクル論という概念が主流でした。ライフサイクル論とは生まれてから死をむかえるまでのライフステージに必要なことを示したものです。この考え方はライフステージが同じ人は同じようなニーズを持っているということが前提になっています。これは大量生産時代の考え方ともいえます。
しかし、今はライフサイクル論からライフコース論に変わってきています。ライフコース論は年代やライフステージが同じでも、いろいろな生き方、コースを選び、それぞれにニーズを持っていることが前提として考えられています。
例えば、同じ年代の女性でも、ある人は専業主婦になり、ある人はキャリアをめざし、またある人は家庭に入ってから再び社会復帰をするというように様々なコースを選択するのです。
そして、多摩NTでも様々なライフコースがあります。そのコースを導くとともに、縦と横のコースをつなげていくことも重要です。
<多摩NTの問題を考える ――多摩NT学会の役目>
多摩NTは造られた当時、子育てをしている人たちがたくさん入居してきました。またNTはそのことを考えて造られた街なので都市計画、住宅の設計はそれに合わせて計画されています。
それからかなりの年月が経った今、住む人たち(中味)と都市、建造物(箱)には大きなずれが生じています。それをどう修正するかが今後の問題です。
多摩NT学会ではこれらの問題に対し、今まで実践されてきたことやそれに基づく提言を生かしていく役目を果たしてくべきはないでしょうか。
今日は藤森先生、鈴木先生をはじめ皆さんからのご提言を多くいただくことが出来ました。ありがとうございました。
【参加者の意見】
@
私は子育て相談を月に2回ほど行っています。この月2回の相談日以外にも毎日3件ぐらい相談を受けています。相談日にこない理由として、やはり看板のあるところには行きづらいという心理があるようです。
相談に来る母親はほとんどが専業主婦です。母親達の話から彼女たちはよい母親になろうと頑張っていることが分かります。ですから分からないがあれば近くにいる子育て経験者に聞くのが一番良いのではないかと思うのです。しかし、実際はそうではありません。
彼女たちは、子育てになれない自分が、子育ての経験のある人に相談して、意見を聞くと、その言葉で自分が攻撃されている、非難されているような気分になるそうです。つまり、子育てをしている自分に対する周りの目が恐いと感じるのです。
そして、母親達が求めているのは意見や考えではなく、”自分の話を聞いてくれる”場”なのです。
今、子育て支援でインターネットが使われていますが、私はその理由をこのように考えています。まず、インターネット上では相手の顔が見えない。そして、おしゃべりしている気分でメールを書ける。この2点ではないかと思います。このインターネットという空間ならば自分の気持ちを表現しやすいわけです。
子育てでインターネットを使うことで、今、父親達にも変化が出てきています。これまでは父親同士の交流は母親を通して行われてきました。しかし、インターネットを使うことでダイレクトに父親同士で情報交換できるようになると同時に、堂々と子育てに参加できるようになってきたというメリットもあるようです。
インターネットが気持ちの交流をうまく行える場になっていって欲しいと思います。
A 田中さん
終戦直後の経済的に苦しかった日本では、一般家庭に平均4、5人の子どもがいて、その子供たちは成人する割合は少なかったです。その時代に比べて今の子育ての悩みは贅沢だなと感じました。それから、今日の話の中で私からみると非常識な母親が多いような気がしたが本当にそういう人はいるのかなとも思いました。
B
お話の中で、専業主婦が問題を抱えているという指摘があったが、仕事を持ちながら子育てをしている母親は、日常行われる母親同士の情報交換に参加できなくてかえって、情報弱者になっているのではないでしょうか?
また、男性は結婚しても、自分に子どもが出来てからでないと子どもについて考えないようにみえる。父親母親予備軍の人たちは子どもが生まれる前に社会の中での子どものあり方などについてお互いに考える必要もあるのではないかと思います。
C 松原さん
私は多摩市で子育てをして、保育園、学童にお世話になりました。今日の話を聞いて、私が子育てをしたときとは大分事情が違ってきているのかなと感じました。また、今のお母さん達が抱えている悩みを自分の娘も持つようになるのかと思いました。
これは私からの提案なのですが、既存の企画をうまく利用して母親達の交流を盛んにしていくことは出来ないのでしょうか。
例えば、定期検診はほとんどの母親達が参加するので、その同じ場所で検診の後に交流会を持ったりるのもいいのではないでしょうか。あと、今の小学校の運動会は子どもの数が少ないのですぐ終わってしまいます。それなのに今まであった未就学児童の参加する競技がなくなったりしてます。学校の運動会で、この地域にはこんな小さい子供たちがいるとか、お年寄りがいるんだという認識が持てるようにするといいと思います。
こういった行事や企画、既存の施設を使っていき、地域に小さい子どもたちや、お年寄りがいることが目に触れるだけでもいいのではないでしょうか。
D 深沢さん
現在は父親の子育てに関する興味は強くなってきていると思います。
授業参観も少し前までは、母親ばかりでしたが、週休2日制度が普及して土曜日の授業参観に出られるようになりました。このように社会全体に父親の子育て参加に対する理解がでてきたのではないでしょうか。子育て支援のやり方次第では父親も大きな力を発揮するのではないでしょうか。