「少子化状況下の保育園の役割
     〜『地域支援』と『子育て支援』について」

     せいがの森保育園園長 藤森平司

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<地域の特性>

 私は八王子市大和田町の郵便局のそばで、保育園を20年ほどやっています。大和田町というのは3つの集団からなっていて、ひとつは昔から住んでいる農家の集団、つぎに八王子は織物の町だったので機織り関係の集団、そして最後にその機屋さんが工場を手放して、その広い土地に小さなアパートを建ててそこに新しい家族たちが住みはじめた、その新しい人の集団、以上3つの集団から成り立っている町です。どちらかというと保守的な町です。例えば、地域に自衛消防団があって、ついこの間までは近くで火事があるとその半鐘が速くなったり、少し離れた所だと遅くなったりするということがありました。

 その他にも、町会長さん達がでんと構えていて近くの小学校での卒業式の来賓で呼ばれると、そこでの席順で非常にもめたりします。私が入学式で前の方に座ったら「なんでだ。」とクレームがきました。そういう保守的な地域ですが、逆に言うと、そのうえで地域が成り立っている町でもあります。

 それとは反対に、去年新しく保育園を作った新しい町は地元の人がまったくいない、100%公団の住宅で、みんな新しく転入してきた人ばかりという状態です。新しく出来た町は、こういうものがいいと思ってくる人と、昔からの大和田のような旧市街化地域と呼ばれているところに住んでいたが、その古い人間関係がわずらわしくて、引っ越してきた人、これらが合わさって、大きな特徴が出来ています。ですから、この二つの町はそれぞれ特徴を持っています。その特徴がでてきたのは、新しい町で保育園をやったときでした。そのことも含めながら今日は少子化のお話をしたいと思います。

 

<少子化の現状>

 少子化を一般の人たちはどのように捉えているのか、考えを聞いたアンケート結果があります。そこで「少子化が進んでいるが、どう思うか。」という質問に対し、その答えで多かったのが「特に困るわけでもないし、どちらでもない」でした。

少子化についての意見として「年金がもらえなくなるので困る。」「こんなに過密な社会では子どもがかわいそうだ。」という意見も寄せられました。

 まず少子化がどのように進んだのかといいますと、終戦直後の昭和20年から24年にかけて出生率が非常に高くなり子どもの数が増えました。これが団塊の世代です。そしてだんだん数が減ってきて、この団塊の世代が子どもを産む世代(昭和45年ごろ)になったら、出生率はまた上がり、またその人たちが子どもを産む頃増えるというような周期的なサイクルを繰り返すと国は考えていました。

 しかし実際はそうならずに団塊ジュニアが子どもを産む時期に出生率は低下したのです。 これが”1.57ショック”といわれるものです。そして、現在この出生率が低くなった世代の人たち(団塊ジュニアの子ども)が、団塊の世代を支えなくてはならない状態になりました。

 国が成熟してくると子どもの数は減少してくるのは当然ですが、あまりに急に出生率が低下したので、当然問題が起こってきます。年金制度や、労働力、子どもの教育(子どもの社会性)の問題、また急速な高齢化に対応するためのゴールドプラン(10ヶ年計画)が途中の5年目で計画が狂い、建て直しを図ることになりました。

 

<少子化対策―― エンゼルプラン>

 このゴールドプランの建て直しを図るために国が、エンゼルプランという構想をつくりました。エンゼルプランは、出生率低下の原因をさぐり対策をたてる計画です。出来るだけ多く産ませようとするより、どうしたら産みたいと思う数だけ実際に産むようになるか考えようとするものです。

 現在、女性が子どもを産みたいと思う人数は2.25人から2.5人と数値だけでみると変化はない。しかし、実際に産む人数は減っている。この産みたい人数と実際に産む人数のギャップは一体何なのか。このギャップをうめることで出生率があがるのではないか、というわけです。

 そして、このギャップを作り出している理由をできるだけなくそうとしています。まず、エンゼルプランでは子育てと仕事の両立を支えるために保育、育児面から保育園を作ったりしてサポートしようとしています。これは厚生省の担当です。母親が仕事をする上で、職場での労働時間を減らしたり、育児休業なども必要です。これらを担当するのが労働省です。それから子どもの教育機関に幼稚園や学校がある。それを文部省が、さらに住宅問題、家が狭くて子どもを多く産めないという意見もあるので建設省も関係してきます。以上4つの省庁の合意でこのプランは出来ています。

 エンゼルプランは平成6年に作られ、10年計画で平成7年度から実施されています。このプランが実施されたことにより、少しずつ出生率があがるのではないかと期待されたのですが、出生率は下がる一方でした。具体的な数値をあげますと、昨年の出生率は全国で1.39人でした。東京都では1.1人、多摩ニュータウンでは1.0人でした。

 

<少子化の本当の原因>

 しかし、自分のまわりには子どもが結構いるし、一人っ子が多くなったということはあんまり感じないと言う人がいます。出生率が低下している一番の原因は、結婚しない女性が多くなったことです。出生率は子どもを産める年齢の女性が将来生む子どもの人数を含めています。といことは実際子どもを持っている人の平均値は2.xx人になるのに、結婚しない女性が増えたことで、全体の出生率が低下しているのです。このほかにも、結婚しても子どもを産まない人が増えたこと、初婚年齢が高くなったことも原因として挙げられます。

 

<子どもを育てること>

 このような状況の中で、私たちはどのようなことが出来るのか。それは私たち保育に関係している者達は、子どもの人数が少ない状態において、どうしたら子どもが健全に育っていけるかを考え、またそのための環境を作ることです。ここで、実際に子育てをしている女性の手紙を紹介したいと思います。

 

 「子どもが出来たことで、仕事を止め専業主婦になった私は、『どうして、こんなに早く仕事を諦めなくてはならないのか。』と思い、夫を憎む気持ちや子どもを愛せないという感情を持つまでになりました。そんなおりに、ある保育園で子どもを預かってもらえることになり、職場復帰しました。仕事で疲れきって子どもの世話が満足に出来なかったとき、保母さんに正直にそのことを話すと、『たまには息抜きも必要。』『頑張りすぎずに頑張って。』と励まされ、自分でなくても子どもを見ていてくれる人がいると安心しました。多くの方の励ましを受け、子どもを育てていくことで、自分も育てられている気がします。そして、仕事をすることはお金ではなく人間の命欲求なのだと実感し、その充実感を持ったことで本当に、子どもをかわいいと思えるようになりました。」

 

 この手紙は現在子どもを育てている女性の気持ちそのものではないでしょうか。

 今、子どもは3歳まで家で育てなければならないという、「3歳児神話」が盛んに言われています。しかし、母親達は仕事を持っていたりして、子どものために一日中家の中にいることは難しいのです。そして、自分のやりたいことをしたいけれど、社会の目(母親は家にいなくてはならないという考え方)があって出来ないという板挟みで非常に悩み、疲れきってしまうわけです。このような状態を見て若い人たちは「結婚すると好きなことも出来ないし、子どもの犠牲になんかなりたくない。」と考え、結婚したくない、子どもは欲しくないと思うのです。

 つまり、今子育てをしている人たちが楽しそうでない、義務で子どもを育てている人が多くなってきたといえるのではないでしょうか。実際に、前の手紙のように子どもを愛せないという母親はかなりの数いるのです。

  

<子育て支援 ――私たちの出来ること>

 昔の子育てと今の状況を比べると、昔は地域全体で地域の子どもとして育てていて、母親も地域社会に出て活動していました。しかし今は、特にニュータウンでは、部屋に閉じこもって母親一人で育てている状態です。このような状況では、母親はストレスが溜りますし、その中で子どもが育つのはかわいそうです。

 そこで、私たち保育に関わるもの達が何か出来ないかということで、保育園のHP(わくわくウェブタウン)で子育て支援を始めました。このHPは家に閉じこもっている人たちが社会に出てくるきっかけになればという主旨で作られたものです。HPの構成内容は以下の通りです。

・ 地域のために…地域のイベント、地域の人たちの紹介

・ 子育て情報……手作りおもちゃの紹介、子供向けのイベント紹介

・ 保育園の紹介

・ 子育て講座

 このHPは私たち保育園の関係者だけでなく、地域の方々にも参加していただいて、意見を書き込めるようにしています。このようにインターネットのHPをつかって地域をつなぎ、子育て支援を試みることで、少子化のなかでも子育ては楽しいとか、地域で子育てを支えていく姿勢を作っていくことを提案したいと思います。

  

【アンケートやご意見をきいて】

インターネットのようなまだ特殊と思える手段は、特にこのような新しい地域では実際にやってみて、かなり有効な手段の一つであると実感しています。もちろん、最終的には人のつながり、ネットワークですが、その場に引っぱり出すために、隣と壁で仕切られている環境の中では様々な工夫が必要だと思います。

せいがの森保育園 八王子市別所1-58
TEL 0426-70-7167 FAX 0426-70-0467
E-mail
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