2001年度総会およびシンポジウムのご報告

5月19日(土)ベネッセコーポレーションにて開催

                文責:多摩ニュータウン学会筆頭理事 田一夫

 信頼と連携のネットワーキング
〜新しい都市コミュニティの形成をめざして〜

 当学会では調査・研究を推進するために、毎年度 年間の統一研究テーマを定めていますが、今年度のテーマは標記の通り「信頼と連携のネットワーキング」〜新しい都市コミュニティの形成をめざして〜です。

 東京都の撤退の動きなど、最近の多摩ニュータウンを取り巻く変化を、ニュータウン再生のために活用していくには、市民・行政・企業・大学がお互いに「信頼」しあい、緊密な「連携」を深めるネットワーキングづくりを積極的に進めて行く必要があります。このネットワーキングは、「真の豊かさを実感できる新しい都市コミュニティ」をデザイン・創造するための人智を結集する手段として位置づけていきたいと考えていますので、会員の皆様の積極的な参加をお待ちしています。

総会のご報告および決議事項

 2001年度総会は12時に開会、まず、2000年度事業報告、収支決算報告、監査報告について、担当理事、監事から報告がなされ、満場一致で承認されました。

 続いて、2001年度事業計画、収支予算案について、担当理事から提案され、質疑がされましたが、会員の上田次兵衛さんから、他のニュータウンを見学したらどうかとの提案があり、2001年度の事業として実現すべく検討していくこととなり、事業計画、収支予算について満場一致で承認されました。

 最後に、2001年度〜2002年度の役員の選任について提案がなされ、従前の役員に加え、新たに木内基容子さん(八王子市役所)、丸山剛さん(多摩美術大学)のお二人が理事に選任されました。なお、横倉舜三監事から、監事については規約通り2名を選任してほしいとの要望があり、次回総会までに候補者を選考しておくことになりました。(2001年度〜2002年度役員は最後の表に掲載)

 シンポジウムは、従前は基調講演に引き続き、壇上に数人のパネリストが上がってパネルディスカッションを行う形式をとってきましたが、今年度はシンポジウムに参加された人達全員を六つの分科会に分かれて参加し発言していただく、全員参加方式を採用しました。これは初めての試みでもあり、準備不足、会場の制約等もあって、うまくいくかどうか心配でしたが、幸い参加の皆様から大変好評をいただき、心配が杞憂に終わりほっとしております。

 来年度は会員の皆様の声を一層反映させ、充実したシンポジウムにしていきたいと考えていますので、ご支援の程よろしくお願い申し上げます。基調講演並びに各分科会のあらましにつきましては、後半に掲載してありますので、当日参加された皆様は他の分科会の様子を、参加できなかった会員の皆様は当日の様子を垣間見ていただければ幸いです。


   シンポジウム
       
調

「信頼と連携のネットワーキング」

                      中央大学 総合政策学部教授 細野助博

 まずはじめに、「ネットワーク」と「ネットワーキング」は違うということをご理解いただきたい。ネットワーク(仕組み)はできても、実際に行動しなければ意味がない。汗かいてアクティブにネットワークを機能させるのが、ネットワーキングです。

 今、多摩の元気がしぼんでいます。街の活気のバロメータは、人口の増減でしょう。バブル全盛の1987年、都心では1.5%の人口流出過多だったのが、バブル後の1998年では0.5%流入過多です。逆に多摩市では、1987年は3%流入過多だったのが、1998年には1%流出過多になっている。なぜでしょうか?

 地価の下落です。バブル全盛期の多摩市の地価と昨年度

の東京23区の平均地価は同じです。かつて多摩ニュータウンは、都心で働く人々に公団や都が安い住宅を大量に供給して人口を増やしてきましたが、10数年前と同じ値段なら、通勤に便利な都心に住みます。

 確かに多摩ニュータウンは緑が多い。空気もきれいです。けれど、都心回帰を止めるだけの魅力はあるのでしょうか? 昨年夏、SOGOが撤退した時、住民2,000人にアンケートをとった結果、多摩ニュータウンのヘソたる多摩センターは、単なる通勤・通学の通過点でしかないことがわかった。デートの場所として行きたいかという問いには、誰もYESとは答えなかった。60代世代は62%がずっと住みたいと答えてくれたけれど、20代では16%だった。人間、年輪を重ねるとゆったりとした自然と文化的な品格を好むようになります。また、若者世代も同時に集まってくるには賑わいも要る。品格をたもった賑わいも欲しい。高齢者にも若者にも、多様な世代にとって魅力ある住み心地のいい街にしたい。これが、今の多摩ニュータウンの最大課題です。

 昨年の12月2日、広域多摩の28大学がサミットを開いて学長宣言しました。大学は地域にどのように貢献できるかを考え実行するという趣旨でした。

 それから半年経った今、大学だけでなく自治体や企業やNPOが連携して「学術・文化・産業ネットワーク多摩準備会」を立ち上げようという動きになっています。(6月8日、45大学および20行政&民間団体で正式発足、我が学会も正会員)

 大学も自治体も企業も、もうすべて自前でなんとかできる時代ではない。これからは、お互いの強みを融通し合って課題解決やそれぞれの地域の魅力を高めていく時代です。大学には専門知識が集積されています。企業は市場(マーケット)を知り抜いています。時間と体力をいっぱい持っているのが学生です。地域には現役時代のノウハウやスキルを活かしきれない元気な高齢者もいらっしゃる。これらの資産をうまく融通し合えるネットワーク(仕組み)を作ろうというわけです。

 「学術・文化・産業ネットワーク多摩準備会」は4つの部会から成ります。第一部会は大学の知的資源を地域に還元する「教育・研究支援部会」、第二部会は地域が抱える課題の解決や地域活性化に取り組む「産公学民連携部会」、第三部会は開かれた大学講座を実現する「生涯学習支援部会」、第四部会は「大学間連携部会」です。

 これら4つの部会で動き出していくので皆さんからも提案・要望・智恵を出していただきたい。凛と自立して(自立は孤独ではない)お互いが信頼し合って活動していく、それが、信頼と連携のネットワーキングです。

                        *諸般の事情で基調講演が鈴木寛先生から細野先生に変わりました。


       分科会報告

分科会1:大学・市民・地域の広域ネットワーキング

文責:植月真理(多摩ニュータウン学会理事)

 2000年12月、広域多摩の28大学が連携して学長宣言を発しました。当初、モノレールの多摩センター延長を機に都市間競争および連携や、少子化時代における大学の生き残り対策といった課題認識から始まった動きでしたが、もはや大学の問題は大学だけで考え解決できる時代ではないとの認識に立ち、共鳴する大学をさらに加えて、現在では45大学と20機関の行政等が連合しようとしています。その視点は、大学の知的資産を地域に還元し、地域と連携しながら地域にとって不可欠の存在を目指すというものです。産官学市民の連携を統一テーマに「学術・文化・産業ネットワーク多摩準備会」を6月に発足させ、4つの部会で具体策を練っていきます。

 準備会の代表事務局である中央大学学長室の程島室長から上記の趣旨説明をいただき、これに対して市民・学生・地元企業の立場から要望や提案が出されました。主な内容として、公開講座情報(講座内容・料金体系等)の積極開示、良質の講座を継続的に実施するための低コスト構造(企業や市民の知的資産の有効活用含む)、コミュニケーションコストや心理的敷居を低くする面からも地域の情報インフラ整備(IT化)が不可欠といった声があがりました。

 いずれにしても、足元の地域に向き合ったとき、そこ(多摩)が好きだと思えること、多摩の良さをもっと顕在化することで、さらなる魅力アップの施策や工夫を地域の智恵をつないで実現化していきたいという参加者たちの想い・願いが確認できた会でした。

 

分科会2:市民生活の利便性と自治体の広域連携

文責:羽生謙五(多摩ニュータウン学会理事)

 当分科会では16人の参加をえて、市民生活の利便性の面から自治体の境界を越えたまちづくりについて議論しました。

 まず稲城の方からの発言がありました。「われわれ市民は便利な暮らしのために行動範囲を広げ、それを行政が後追いしているのではないか。例えば稲城市立病院は多摩市民も多く利用しているように、自治体の境界に関係なく施設を利用したいが、なかなか行政側の体制が整っていない」という問題提起でした。これに対し、多摩と町田の行政の取り組みがそれぞれ報告されました。

 話をまとめると、各市の制度の違いや費用負担などの問題から簡単には実行できず、まず問題の少ないところから地道に進めているが、市民ニーズを反映させるような連携はまだまだ進んでいない。また首長の姿勢や地域相互の補完ができるかも重要なポイントとのことでした。

 自由討議に入り、ニュータウンを構成する各自治体が今後どうあるべきかが話題となり、従来から根強い「ニュータウン市」構想の話では、多摩市がリーダーシップをもってニュータウンをまとめていくべきだという意見や、また合併よりも自治体間競争により各市が独自性を出しながら連携を図るべきとの意見が出されました。

 住民同士の連携は活発に行われており、それなりのネットワークも持っている。ソフト、ハードを問わず、その環境を強化する取り組みが必要とされており、まずはニュータウンの周囲も含めた広域連携に向け、市民ニーズを反映した提案をしていくべきとの方向を出しました。

 今回は準備不足もあり議論の時間も十分取れませんでしたが、予想以上に関心が高く、多くの意見が出されましたので、またこのような場を設け活発な議論ができればと思います。

 

分科会3:地域産業の活性化とコミュニティ・ビジネス

文責:加藤由紀子(会員/多摩市役所勤務)

 若い世代層と比較的年齢が高い世代層で発言の切り口が分かれましたが、「地域を元気にするビジネスがコミュニティ・ビジネスであり、多摩ニュータウンは需要面でも供給面でも大きな可能性がある」という点が、まとめになりました。

 地域の経済基盤を強固にするため及び「痛勤」時間短縮など、コミュニティレベルでの生活を豊かにするために考えられる手法として「企業誘致」があります。高速大容量の情報通信インフラが多摩センター地区等に整備されれば、企業は都心から多摩に移転するでしょうか。企業の第一線で働いている参加者の声をまとめると、(1) 企業での働き方や人事管理のしくみが抜本的に変わらないと難しい、(2) 実際に対面して仕事をまとめていく交渉ごとなどの場合、多摩は地理的に不利、など厳しい指摘が多くでました。

 企業誘致ができなければ、多摩ニュータウンの活性化は図れないのでしょうか?

 比較的年齢の高い参加者には共通して、対価としての収入の額よりも、地域とのつながりや今までの経験を活かしながら第一線で働きつづけたいという意向が見られました。

 一方、地域にはフルタイムで働く女性の家事労働を支える仕事や福祉関係など、新しい埋もれた市場が存在しています。これらの「小さな新しい埋もれた市場」に着眼し、身近な地域を営業圏域としてコミュニティ・ビジネスが立ち上がりやすいまちを目指していくことが大事である、という意見が多くだされました。

 現在は、古い価値観と新しい価値観が混在していますが、ITを活用したコミュニティ・ビジネスで、多摩ニュータウン独自の地域活性化が図れるはずです。

 

分科会4:教室を飛び出す学校教育 〜地域・家庭は教育をどう担うか〜

文責:後藤憲子(ベネッセ教育研究所)

 第4分科会では、実践事例を3つ紹介して、そこから議論を始めました。

 事例1)八王子市立長池小学校の「夏季連続開放講座」 地域のNPO、FUSION長
      池と長池小が協力して、2年前の夏休みから子ども向け講座を開催。中身はN
      POと学校側が出し合って25講座を用意。準備や開催のお知らせの時、メール
      が大活躍した。

 事例2)松木インターネットボランティアの会の活動 八王子市立松木小学校の保
      護者+有志で学校のIT環境整備を行っている。昨年1月から活動を開始し、寄
      付を行ってパソコンの台数を増やしたり、先生・生徒向けの講習会を実施してい
      る。

 事例3)旧東永山小学校を活用して、ベネッセ教育研究所がワークショップを開催
     
多摩市教育委員会が場所を提供、ベネッセ教育研究所がワークショップの
      ソフトを提供して、地域の子どもたちに新しい学びの場を作ろう、という試み。

 討議で話題になったのは、「危機管理(長池小の場合、参加者はイベント保険に入ることを取り決めて実施した)」「先生とボランティアの関係はどうしたらうまくいくか」「5日制になると、土曜は学校が閉まってしまう。働いている人は土日のボランティアができなくなる」などのリアルな問題。また、多摩市はどちらかというと中・高生が多いので、お膳立てされた講座ではなく「中学生のやりたいこと」を支援する試みがあってもよいのではないか、という意見も出ました。

 最後にズシリときたのは「こういう活動に参加しない、引きこもりの子や非行の問題をどうするのか」という指摘。高齢化が話題になりがちな多摩ニュータウンですが、子どもたちを育てていくプロセスで地域のつながりが強くなっていく面もあります。次世代のことにも、もっと目を向けていきたいと感じました。

 

分科会5:生きがいと健康のまちづくり

文責:星旦二&松原和男(多摩ニュータウン学会理事)

 分科会5は「生きがいと健康のまちづくり」をテーマに、15名の参加を得て行いました。討論のキーポイントを、『健康で長寿に、障がいがあってもいきいきと生きていく、そのための方法に関する、自分と仲間それに行政の役割について』として活発に討論しました。

 参加した大学生のグループからは、高齢化に関して、高齢者の就業を促す現場調査結果を踏まえて課題を述べていただきました。 高齢者自身が就業を通して地域に参画している状況が確認されました。 討論では、その参画比率や主体性の視点から見ると、必ずしも十分ではないことが確認されました。

 別の話題としては、東京都の平均寿命が低下し続けていることと、がんによる死亡率は、都心部よりも多摩地区が低いことが示され、その背景として、環境問題、ストレス社会などについて、討論しました。ここでは、環境の悪化を防止したり、社会的なネットワークを確認していくことの大切さを確認しました。 一方、地域で支える子供達の健康づくりの話題や、まちづくりには、個々人の主体性が大切であることが示されました。さらに、行政は、NPOや民間機関とも協働していくことの大切さも示されました。

 全体的にみると、若い大学生らも、多摩の活性化を考慮していることが印象的でした。

 最後のまとめとして、自分のために、皆のために、次世代のためのまちづくりに、それぞれが様々なステージで参画していくことの大切さが確認されました。

 

分科会6:新しい都市コミュニティをどう創るか

文責:瀬戸寿一&鈴木知子(多摩ニュータウン学会学生部会)

 「新しい都市コミュニティをどう創るか」という非常に大きなテーマのもと、学生と住民が、また学生がまちづくりにどのように関わる事が出来るかという議論を中心に、様々な意見が交わされました。議論に先立ち学生側からは、学生が多摩ニュータウン地域に対して「通学地」という以上に必ずしも関心がないのではないかという報告がありました。そのような状況を受け、具体的な解決策として交わされた意見は、多摩ニュータウンにある公団住宅等の「空室」を学生の住居や互いの交流の場として提供し、大学生活と地域を更に密接にしてはどうかという意見や、まちづくりワークショップなどの現場に学生が参加し、自分もまちに暮らす一員としての意識をもってみてはどうか、などの意見が挙がりました。また地域活動に関しては、地域をベースに活動しているNPO・NGO活動に積極的に関わる事の重要性や、趣味や技術取得のために大学開放を積極的に行い、地域住民と学生が共に時間を共有していく必要性について提案され、議論が交わされました。

 このように、今回はコミュニティを創る一例として「地域住民」と「学生」を結ぶという観点から議論を行いましたが、都内でも最も大学が多い「多摩ニュータウン」「多摩地域」の将来のコミュニティ・まちづくりを考える上では、大変重要なキーワードとなるでしょう。すなわち、これから地域を担ってゆく世代が、世代を超えた交流活動を通して、「地域を知る」「地域に積極的に関わる」。これが後に大きな意味を持って来るのではないでしょうか。

 今後も今回のように、様々な世代の持つそれぞれの「コミュニティ・イメージ」やその具体的解決方法を互いに出し合い、議論を深め、コミュニティを協同し創る機会が必要でしょう。


★2001年度役員のご紹介★
今年度の役員は以下のメンバーでスタートしています。皆さん、よろしくお願いします。
                            (あいうえお順)

会長 伊藤 (再任)
筆頭理事
一夫(再任)
理事
植月 真理 (再任:広報・渉外)
理事
大竹 美登利(再任:研究・企画)
理事
齋藤 裕美 (再任:事務局・学会運営)
理事
炭谷 晃男 (再任:事務局・学会運営)
理事
寺嶌 敏雄 (再任:庶務)
理事
萩原 利明 (再任:会計)

理事 羽生 謙五 (再任:事務局・学会運営)
理事
藤森 平司 (再任:広報・渉外)
理事
旦二 (再任:編集)
理事
細野 助博 (再任:研究・企画)
理事
松原 和男 (再任:会計)
理事
木内 基容子(新任:庶務)
理事
丸山 (新任:編集)
監事
横倉 舜三 (再任)