障害者が多摩ニュータウンで生活するために」
                 石川光男(日本社会福祉情報サービス代表)

 私は南大沢に住んでいます。個人的に「日本社会福祉情報サービス」というボランティア団体を運営しています。

 昭和62年12月に大型郵便車での作業中に年賀状の入った重たい袋が建物の2階から落ちてきて、顔面に直撃し、時間が経つとともに身体の自由がきかなくなりました。リハビリで今の状態まで回復しましたが、車椅子での生活になりました。

<多摩NTでの生活>
 私はNTというところは新しい街なので,きっと暮らしやすいだろうと思い,多摩NTの都営住宅に入ろうとしました。

 しかし、現実はそうではありませんでした。まず、都営住宅に入るときに、入居前に家の中が見られなかったため、実際に入居してから、車椅子の生活が困難なことが分かりました。例えば、家に入るときに30cmの段差があって入れませんでした。トイレは狭くて使えなかったし、リビングの床は車椅子の重みで歪んでしまいました。これではとても、生活は出来ません。

 入居前に私が車椅子であることを伝えてあったのに、都の職員は「大丈夫です。」という言葉しかありませんでした。生活できないことを伝えると、「嫌なら出ていってください。ただし、今回当選しているので次回は応募できません。」と言われました。入居するときは身体障害者手帳のコピーを提出するようにとか、診断書を出すようにとかいろいろな要求をしてきますが、私が要求したときには、「嫌だったら出て行きなさい。」の一言でした。

 私はこの事があってから、自分の納得のいくように活動しようと思いはじめました。そのときから年金をただ趣味などに使ってしまうのではなく、障害者のためのボランティア団体をつくろうと考えました。

<車椅子での移動>
 また、私は車椅子でどこまで行けるか試してみました。先がどうなっているのか分からない状態でしたが、1泊2日で多摩NTから有明けまで行きました。

この旅で、まず問題が起こったのは、八王子の松が谷トンネルでした。トンネルの中の歩道は通ろうとしたところ、この通路は道路の維持、管理のためのもので関係者以外は通れないとのことでした。そのため私は歩行者用の”安全な”通路を通りましたが、この通路は段差があり、また坂道で勾配が急なので車椅子での通行は困難です。しかし、トンネルの通路は通れないので、この道を通っていきました。結果的には通れましたが、急な下り坂で車椅子が滑ってしまい、決して”安全”ではありませんでした。

 また、歩行者用の道路は1.5mなくてはいけないはずなのに実際には電信柱などに邪魔されて30.40cmしかないところがありました。これでは車椅子が通れません。そこで、建設局の人に聞いてみたところ、「図面には電信柱のことは書かれていませんので、分かりません。」の一点張りでした。最終的には有明までたどり着きましたが、今、腰痛に悩まされている状態になってしまいました。

<多摩NTの問題点>
 ここからは車椅子の障害者に限った話になります。

多摩NTは新しく、きれいな街で、一見どこにでも行けそうで、車椅子の障害者にとって暮らしやすい街と思いやすいのです。しかしこれは大きな間違いです。

 実際に買い物に行けば段差がありお店に入れないのです。そして駐車場はたくさんありますが、障害者用の駐車場は非常に少ないです。専用の駐車場がどこにあるのかもわからないので、分かっている場所にしか行かなくなります。結果として、運転できても行動範囲は狭くなります。公園も入り口に柵があって入れません。この柵は公園内に自転車やバイクが進入しないためのものだそうですが、この柵のために私は入れません。

 八王子市の担当者とこの現状を調査しているときに、その方が「健康な人が車椅子に乗っていれば、柵を持ち上げて入れます。」と言いました。普通、健康な人は車椅子に乗りません。この言葉に現れているように、障害者に対して場当たり的な対応しかしていないのが現実です。私は7年間この地域に住んでいて、多摩NTの造成、維持、管理に大きな疑問を感じます。また、障害者に対する対応は年々悪くなる一方のように感じます。

また、もうひとつの問題として、多摩NTの病院の少なさがあげられます。南部地域病院という大きな病院がありますが、そこには開業医の紹介状がなければ診察が受けられません。それで私は仕方なく朝4時に起きて、車で都内の病院まで出掛けています。

 また,病院に行っても診察室に入れないことがあります.体温調節、お腹が空く・排泄等の感覚がないので夏場は点滴が必要です。しかし、病院の入り口が狭かったり、段差があると入れず外で点滴を受けることもあります。

 また、私はヘルパーを頼んでいますが、料金が高い割に質が良くないことが多いです。このヘルパーの問題も障害者の生活にとって、非常に大きな問題です。

<ニュータウンの住民が認識すべきこと>
 健康な人の老化が進み体が動かなくなれば、老人も障害者も体が不自由という点で同じです。そう考えると、見た目がきれいで住みやすそうだと感じさせてしまい、簡単に外に出られるという錯覚を起こすところにNTの怖さや盲点があることを認識する必要がでてくるのではないでしょうか。

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