【伊藤滋会長】
<SOHOの可能性>
今、SOHOという言葉を良く耳にします。これは何かといいますと、Small
Office,Home
Officeの略です。自宅の小さなオフィスで仕事をすること、在宅勤務などのことをいいま
す。10年前5年前は、実現不可能と思われていました。しかし、情報通信技術の発達によ
り現在は可能な就労形態になっています。それを考えますと、これからの都市計画にもこ
のような勤務形態を念頭において行う必要が出てきていると思います。
SOHOで働くということは個人で勝負することでもあります。ですから、その瞬間瞬間を捉
えて即断をしていかなければ、ビジネスは成り立ちません。失敗もあるでしょうが、ビジ
ネスチャンスも多いのです。
また、情報通信技術の発達に伴って、自分の生活や行動をする地域とは全く異った場所
の人と関わりを持つことができます。つまり、自分の地域での関わりとは別に、地域のし
がらみから離れた、ほかの地域、分野の人とも交流を持てるので、いろいろな情報が入っ
てきます。これはある問題が起こったときに、新しい知識によって、解決法を探すのに非
常に役に立ちます。SOHOという働き方は、地元密着でありながら、情報通信技術によって
いろいろな地域の人とネットワークを築けるのは非常に有益だと思いますし、女性にとっ
て新しい良い形の働き方ではないかと思います。
<SOHOと互助関係>
なぜ、SOHOを話題にしたかといいますと、これは互助の話と関係があるのです。SOHO
は新しいビジネス形態ですし、自分の力で勝負するわけですから、かなりドライなもので
す。そうなると古い土地の農村型社会で成立するのは難しいのです。旧住民と新住民の争
いや、土地のしがらみ、そういったものとは無縁の、このNTで成立する可能性が非常に高
いのではないでしょうか。
もしこのNTでSOHOを活用すれば、元気な高齢者(60歳から70歳)にヘルパーを紹介
する事業をインターネット上で行うことも可能です。ただし、今はヘルパーの資格制度が
あるのでなかなか難しいでしょう。これからの高齢化社会を考えますと、資格制度などは
なくし、もっと簡単にヘルパーを使えるようにするのが賢明でしょう。また、保育園で若
い保母さんと元気な高齢者がいっしょに保育するのもいいのではないでしょうか。そのた
めには国家試験や等級制度は無意味なものでしょう。
今は高齢者でも元気であれば、働きたいと考える人が多いのです。働くということは、
ただ、生活をする資金を得るためだけではなく、働いてそれが何らかの形で認められるこ
とが重要なのです。これは高齢者であっても自分が働いたその成果を評価されたいという
のは同じです。
SOHOという柔らかい組織が発達し、高齢者を人材として受け入れていけば結果として失
業率は下がるのではないでしょうか。あらゆることが組織、システムの流れに組み込まれ
れば責任はなくなるでしょうが、これが互助関係を重いものにしている原因といえます。
今はこの重たい互助関係から抜け出す時期に来ているのではないでしょうか。多様なサー
ビスを選択できる新たなシステムを構築し,個々の人間がそれぞれの責任に基づき行動し
ていくことが重たい互助関係を取り除く第一歩だと思います。
【寿崎かすみさん】
<ニーズに応える柔軟性の必要>
子育てをしやすい街作りを考える上で大事なのが、子育てをしている人がどのようなサ
ービスを必要としているのかを知ることです。今母親たちが必要としていることは「子供
を安心して預けられる場所の確保」ということです。
しかし、求められるサービスは時代によって変わってきます。それはニーズ自体がその
ときによって変わってくるからです。そこで重要になるのがそのときのニーズに合った保
育システムを提供していける柔軟性が必要なのではないかと思います。
柔軟性というのは街自体のハードにもいえることで、都市の道路や住宅政策にも柔軟性
が必要でしょう。
この柔軟性のある街づくりをしているのがスウェーデンです。この国では福祉政策が都
市計画に取り込まれています。日本でもこのようなことを考えていく必要が出てきている
時期に来ているのではないかと思います。
<住宅の供給に関して>
早川先生が書かれた本の中で、「住宅福祉」ということを言われています。障害者に対す
る福祉の基本は住宅保障にあるとありました。障害のある人が地域のコミュニティに加わ
って生活するのは、生活の基本となる「住」が大切なのです。
<多摩NTの居住環境>
多摩NTの住宅に関する調査で多摩の教育問題研究所が行った「居住環境が児童の発達
に及ぼす影響」というものがあります。そのなかで多摩NTは幼児を抱えた家族には住みや
すいが小学生中学生の子供がいる家庭ではそうではないと書かれていました。
その理由として挙げられていたのが、多摩NTでは住んでいる場所によって所得階層が
はっきり分かってしまうということです。同じ小学校でも住所によって親の所得階層が分
かってしまうので、子供が親の職業などの話をするようになると少なからず、心理的に影
響があるし、親同士のそういった微妙な問題が子供にも影響してくるのではないかという
ことでした。
そこで求められるのがバランスのとれた住宅の供給です。日本では、まだこの点では考
慮が足りないと思うので、住宅供給のバランスをもっと考えていかなければならないと思
います。
【伊藤会長】
住宅の供給に関して,私の考えを申し上げますと、公が出過ぎてはいけないと思います。
役人は役目が縦割りに決まっていています。しかし、会社、企業の最終目的は利益を求め
ることですので、そのために競争し、質の良いものを作り出します。
住宅も「公」が建てるのではなく、民間企業に建てさせ、質の良いものを公が買い取る
などをすれば、結果として住民に良いものが供給されます。公を頼りにしすぎないでやっ
ていける街作りが必要だと考えています。
【石川良一さん(稲城市長)】
行政が必要な部分もあります。そのひとつがごみの問題です。ごみを出しやすく、しか
もリサイクルにも活かせるようにするのも課題ですし、市内で出たごみをきちんと市内で
処理でいなければいけません。発電や余熱を利用したり、リサイクルの問題、ダイオキシ
ン、下水処理の問題もあります。
汚いものを目に見えないように処理されていますが、実際にどう処理しているのかを知
っていかなければ、文化のバランスが壊れていくのではないかと思っています。どう処理
されているのかを知らなければ、環境のことも考えられないのではと思いますし、個人の
倫理の問題にも関わってくると思います。
【堤香苗さん】
私は2つの提言をしたいと思います。
<ネットワークのネットワーク化>
まず、ひとつはネットワークのネットワーク化ということです。多摩NTではインターネッ
ト上でネットワーク団体が出来ています。そこで従来型のネットワーク(農村型社会)と
新しいネットワーク(コンピュータ上)のリンクすれば、それぞれのネットワークの持つ
情報を開示し、情報を投げかける事により、2倍3倍になって情報が返ってくるというこ
ともあるのです。そうすればネットワークが広がっていくのではないかと思います。つま
りコミュニティの規制緩和ともいえます。
そのためには、コミュニティーセンターを地域限定からもっと開放されたものにして活用
の幅を広げていく必要があるのではないかと思います。また、企業のコンピューターセン
ターで廃棄される古いコンピュータを地域に寄付してもらって、地域の情報化に役立てて
いければと思います。そのためには地元の企業が地域に貢献したときにはその寄付したも
のには税金をかけないなどの、行政が規制緩和を実現して行く必要があります。
<責任と権利>
それから、もうひとつの提言は使用する側の権利と責任とについてです。
例えば、多摩NT学会などでもただ単に話し合いをしているだけではなく、いろいろなこと
にチャレンジしてうまくいかなければそのところだけ修正していくという形をとってもい
いのではないでしょうか。話し合いをしているだけの団体ではなく、それを実践していけ
る団体になり、一人一人が責任を持って権利を主張できるようになると多摩NTはもっと変
わるのではないかと思っています。
【石川光男さん(南大沢)】
私は、この街は住みにくいとおもう人間が多い街が「生きている街」であると思います。
住みにくいけれども、ここに住みたいと思うからいろいろな意見を言うのです。住みやす
い街にするために、意見を出し、情報交換することが活性化につながると考えています。
意見を出さなければ単なる住民、納税者にしかすぎません。
それから、いろいろな意味で多摩NTはきれいすぎます。例えば、自分のことだけをやっ
ていれば他人のことはかまわないという姿勢もそのひとつではないでしょうか。このよう
な姿勢のツケはいつか必ずまわってきます。
私は南大沢に住んでいますが、八王子市役所に行ったら、「あそこは山向こうですから」
と言われました。多摩市ではあなたは隣の八王子の人だから市の施設は使えませんと言わ
れました。両方の市境に住んでいてどちらの施設も使いにくいので私は「多摩市南大沢」
に住んでいると皮肉で言っています。
八王子市に住んでいても市境であることから、福祉施設などの公共の施設を利用しにく
いのが現状です。なのに税金はしっかり取られます。行政はこういったネットワークだけ
はしっかりしているのだなと思いました。
【伊藤会長】
多摩NTという地域が本当の地域として意識すべきであって、市境というのは便宜的なもの
と考える時代だと思います。納税者にとっての良いサービスとは市を意識しないで意見を
述べサービスを受けられるようにすることではないでしょうか。
この要求をできる人たちは、通称、団地族と言われる人達です。土着の人達は歴史的に先
住権を持っていて、自分達の暮らしやすいようにシステムを作ってきました。しかしその
システムは新しい人達にはそぐわないことがあります。
そこで、新住民の代表格である団地族がいろいろな要求をして、古くからの人達と同じよ
うに住みやすさを感じられるように、自分達の要求を主張していくことが大切でしょう。
そして行政が団地という多くの人が生活する場でも市のサービスを充実させていく必要が
あるでしょう。また、そのサービスをいかに効率良く利用できるかが問題になってくるで
しょう。
【田中慎一さん】
最近行政批判の声が聞こえてきますが、私は政治や行政をどうコントロールするかが問
題だと思います。いかに市民が政治や行政をコントロールし、新しい社会を築くかを真剣
に取り組まなければなりません。そのためには、お任せの意識を捨て主権者意識、納税者
意識をしっかり持ち市民として確立した地位を築く努力をすべきです。そうすることで無
駄のない行政、有効な社会投資が行われるようになるのではないかと考えます。