第7回研究大会


 
 

 平成15年11月8日(土)「市民の‘技’と‘行動’が未来を拓く」と題した研究大会が東京都立大学・国際交流会館で開催されました。渡辺多摩市長をはじめ会員以外の方もたくさん参加され、大変に盛り上がった大会でした。

私たちは、この研究大会を通してとても得がたい成果を手にすることができました。それは、世代や立場などを超えて「多摩ニュータウン」が抱える課題に対して共通の認識をもつ機会を得たこと、そして多摩ニュータウン学会自身の「明日を担う人材」を得ることができたことです。

開発から35年たったニュータウンは、今、岐路にたっております。開発主体が主役を降り、これからいよいよ市民が主役になる「第2幕」が開くわけです。そのためのウォーミングアップを、今回の研究大会で披瀝していただきました。具体的な内容は、後段のページでご確認ください。

当日の会場で渡辺市長さんが熱心にメモを取っていらっしゃいました。まるで「女子学生のように」。身近な存在としての行政の首長は本当に得がたいものです。彼女の熱心さが、是非、行政にそのまま反映することを願っております。

 そしてわが多摩ニュータウン学会も8年目を迎えました。設立時の熱気も情熱もまだまだ持続しているつもりではいますが、学会執行部も着実に1歳ずつ年を重ねていきます。そのような中で、執行部に若いメンバーを迎え入れることができ、そして彼らの力で今回の研究大会が開催されたことに感慨深いものがあります。

どのような組織もその足取りを観察すると、「人の問題」にぶつかるのです。どのような人材を組織に招き入れるか、どのように参加してもらうか、この難問にいつも解答を提出することを執行部は考えていなければなりません。これは、「街づくり」においても共通した課題ではないでしょうか。

 官にすべて依存する「大きな地域社会」は選択肢としての優先順位が大きく後退している現在、真の意味で「市民が主役になる」ことの責任の重さをどれくらい市民一人ひとりが自覚できているか、それを問われる時代に既に入っているのではないでしょうか。

新しい時代、新しい年のはじめ、学会の新しい歩みに会員の皆さまのご協力を是非いただきたい。この学会が「多摩ニュータウンを研究し提案する」スタンスをとり続ける限り、皆さまの参加とご支援が必要であることを繰り返し申し上げたいのです。

会 長:細野助博


プログラム

主 催:多摩ニュータウン学会

●日 時:11月8日(土) 13:30〜17:40 <13:00開場>

●場 所:東京都立大学 国際交流会館 大会議室
      (京王線相模線 南大沢駅より徒歩15分)

●テーマ市民の「技」と「行動」が未来を拓く
           〜私たちが担う明日のニュータウン〜

@基調講演 (13:35〜14:25)
   炭谷 晃男氏(大妻女子大学 社会情報学部 教授)
          
「TNTにおける市民活動の‘技’と‘行動’」

A活動報告・研究成果発表
 【第一部】 
(14:35〜16:10)
  
*横山 裕幸氏 (つるまきまち広場計画事務局)
         
「つるまきまち広場計画の取り組み」
  *江尻 京子氏 (多摩ニュータウン環境組合リサイクルセンター長)
         
「環境・リサイクル活動」
  *岡本 光子氏 (Seeds代表)
         
「子育て活動」
  *小西 渡氏  (多摩青年会議所まちづくりビジョン委員会委員長)
         
「まちづくり活動」
  *作道 好男氏 (多摩自由大学運営委員長)
         
「地方自治」

 【第2部】 (16:20〜17:20)
  *東京都都立大学建築学専攻上野研究室:
   @
多摩ニュータウン集合住宅における単身高齢者の居住様態
   A
多摩ニュータウンのコミュニティセンターにおける
           フリースペースの利用実態
に関する考察
   B住宅地における住居侵入盗の発生実態と空間構成との関係に関する考察―
           多摩ニュータウンの侵入盗多発地区におけるケーススタディー

  *中央大学総合政策学部細野研究室:
    
街づくりに対する学生参加の効果について〜クリスマスイベントと商店街の
    顧客満足度調査について〜

  *東京都立大学大学院都市科学研究科星研究室:
    
都市高齢者の生活実態調査から高齢時代の健康づくりとコミュニティ活動を
    考える

   B全体纏め (17:20〜17:40)
    会長(中央大学総合政策学部 教授)

●入場料:無料

    ●問合先:多摩NT学会 広報担当:植月
         (電話 042−356−0657 ベネッセコーポレーション内)


 

市民の“技”と“行動”が未来を拓く

〜私たちが担う明日のニュータウン〜

 

2003年11月8日(土)、ニュータウンで活躍されているグループや学生さんたちの欲的な研究成果をご披露する研究発表会を、都立大学国際交流会館において開催しました。今回はできるだけ多くの「ニュータウンの担い手」たちをご紹介し、交流できる場にするという趣旨でした。当日は会員以外のご参加も半数近くあり、多摩ニュータウンのエネルギーを感じた次第です。懇親会も大いに盛り上がりました。

 

今回のニューズレターで、ほんの触り部分だけですが、ご報告します。研究発表とシンポジウムの詳しい内容は、春に発行予定の「学会誌」でご紹介します。

    (文責:多摩TN学会 広報担当:植月真理)

 

 

        基調講演:炭谷晃男氏(大妻女子大学 社会情報学部 教授)

     「多摩ニュータウンにおける市民活動の技と行動」
                   
〜サステイナブル・コミュニティに向けて〜

 

1.生活の舞台としての多摩ニュータウン

 科学技術思想家のマンフォードは、ニュータウンと飛行機は今世紀の偉大な発明と述べていますが、その両者とも100年前の1903年に出現しています。日本のニュータウン(以下NT)は、日本固有の問題群の中から誕生し、独自の発展をしてきています。我が多摩NTにおいても、「つくられたまち」から「市民の創るまちへ」への方向転換を主張してきましたが、30数年間の居住者らによる住民、市民運動について改めて再評価する必要があると考えています。

2.変容する市民活動

活発な市民活動の背景としては、@高水準に整備されたインフラ、A同質な階層が集合的に居住、B地縁・血縁等の共同体規制がない、C多数の専業主婦層の存在、などの理由から多様な市民・コミュニティ活動が展開されてきました。1970年代の多摩NT創生期における市民活動は、子育てをめぐるさまざまな「生活密着型活動」が展開されました。さらに、NT建設の過程で鉄塔建設問題・尾根幹線建設問題という「住民運動」も華々しく展開されました。住民運動は、作為要求型活動、ないしは作為阻止型活動といわれるスタイルで、行政対住民という構図で展開されてきました。

ところが90年代に入ると、市民活動にも変化がみられます。そのきっかけは、95年の阪神淡路大震災であり、98年に成立をみたNPO法です。これまであまり地域活動に参加してこなかった“お父さん”たちが積極的に地域活動に参加するようになり、活動の採算性、事業性に配慮し、コミュニティビジネスや、ITを活用したSOHO事業が志向されるようになってきました。

3.市民活動の課題

 かつての「自己充実型活動」や「社会奉仕型活動」という範疇から、NPOに代表される第3の「ボランティア・アソシエーション活動」(課題解決型活動)が注目されています。それには市民と行政あるいは企業とのパートナーシップということが課題となりますが、「市民同士の連携・ネットワーク」という課題を強調しておきたい。市民活動同士のネットワークにより、多摩NTが現在抱えている諸課題を解決する知恵を、このNTから生み出したいものです。また、それが可能だと考えています。新しい市民活動には異質性・多様性を認め合って、相互に折り合いながらともに築く洗練された新しい共同生活の規範、様式という「共生の作法」(奥田)というものを、お互いにわきまえる必要があります。

  


      第1部 活動報告

    つるまき・まちひろば計画のとりくみについて

横山裕幸氏:つるまき・まちひろば計画事務局

  緑豊かで広場があって歩行者道でつながっている鶴牧商店街は素晴らしい地域の資源です。高いポテンシャルを持ちながら現在は元気がない商店街ですが、今後また地域の中心となると考えています。高齢化社会を前に歩ける距離に様々なサービスが求められるという予感があるからです。子育てを終えた主婦や定年退職したサラリーマンなどが、地域を舞台に活躍できる場を期待していると考えるからです。

地域に必要とされるサービスをビジネスとしても成り立つ形で、住民主導で行う。そんなコミュニティ・ビジネスによって商店街を活性化できないか、それが「つるまき・まちひろば計画」が目指したところです。

一年弱の活動の中で3軒の空き店舗のうち1軒が埋まりました。そんな変化を見て共感していただける方が集まってくる。集まってきた人たちのアイデアを合わせて、また新しいビジネスのコンセプトを育てる。そんな循環が鶴牧商店街に生まれつつあります。

 

    多摩ニュータウン環境組合リサイクルセンターのとりくみについて

江尻京子氏:多摩ニュータウン環境組合リサイクルセンター長

  多摩ニュータウン環境組合リサイクルセンターは、2002年2月に運営NPOの公募があり、企画コンペの結果、東京・多摩リサイクル市民連邦が受託するようになった施設です。既存のNPOを対象にコンペ方式で選抜するという方法は全国的にも稀で、現在も「NPOが運営している施設」として全国各地から視察や見学があります。

  リサイクルセンターのオープンは20044月末。多摩ニュータウン環境組合は八王子市・町田市・多摩市で構成する一部事務組合で、収集区域内から出る一般廃棄物の中間処理をする多摩清掃工場を持っており、リサイクルセンターは工場に併設しているプラザ機能を持つ施設です。運営がスタートして1年半。市民が気軽にリサイクル活動に親しんだり、ごみの減量について考えたりするイベントや講座の主催、粗大ごみから再生した家具や自転車の販売などを行っています。今年度は「地域・わざ・次世代」をコンセプトに事業展開しています。

 

    自分らしい働き方を見つけるネットワーク Seedsのとりくみについて

岡本光子:Seeds 代表

  Seeds 2000年秋、多摩市に住む30〜40代の子育て中の女性7名で発足しました。「女性たちが子育てを楽しみ、自分らしく働くことを応援します!」と会報誌Seeds Letterの冒頭で謳っているとおり、女性の就労支援と子育て支援を柱に、非営利の任意団体として活動しています。現在、会員は多摩地域を中心に約40名、そのうち6名が事務局スタッフとして「就労支援」「子育て支援」「保育」「ネットワーク」の4つのプロジェクトを担当し、様々な企画の立案・運営の中心を担っています。

 Seeds に関わりお互いに刺激しあう中で、就労や地域活動などへ「はじめの一歩」を踏み出すきっかけを掴む方は少なくありません。手を伸ばせば支えあえる距離に立ちながらそれぞれ自立している、そんなネットワークとして長く活動を続けていきたいと考えています。

 

    多摩青年会議所まちづくりビジョン委員会のとりくみについて

小西渡氏:多摩青年会議所まちづくりビジョン委員会委員長

  私たち多摩青年会議所は、創立以来、明るい豊かな社会を築き上げることを目的とし、一市民そして一青年経済人としての立場から、私たちの愛するまち多摩の発展に貢献すべく、まちづくりに関する事業を行ってきました。本年その一環として、高齢化や地域経済の基盤である

地元中小企業の発展の停滞など様々な問題を抱えている多摩の現状認識、その現状を踏まえた上での地域経済の活性化を柱とした今後の魅力あるまちづくりのためのビジョンの策定を視野に入れ、5月ゴールデンウィークの3日間を利用し、多摩センター駅周辺において「多摩センター来街者アンケート」と題した調査を実施しました。多摩ニュータウンのみならず周辺地域にお住まいの多くの皆さまから寄せられたアンケートの集計結果、そして日頃の多摩青年会議所の活動内容についてご報告しました。

 

    多摩自由大学設立の一考察について

作道好男:多摩自由大学運営委員長

 

 多摩自由大学は、多摩市と多摩ニュータウンにおける「まちづくりとコミュニティ形成」の活動主体となる「よき自治市民」としての教養を高めることを目的とし、「市民による、市民のための、市民の視線から考える市民の大学」をスローガンに、よき自由人・よき専門人・よき自治市民を育成する相互学習の場として、有志・市民団体協賛のもとに設立されたものです。

 

 

1)      なぜ、いま、市民による、市民の視線から考える自由大学の設立なのか。分権下の市民生活を取り巻く情勢と自治体行政・チェック機関市議会の当面する課題から見て。

2)      後期高齢者が運動の先頭に立つ。このことをどう捉えるか。市民力強化の視点から多摩市・多摩ニュータウンの現実をどう見るか。「新たな公」をどう築き上げていくのか。

3)      ニュータウンの中核、多摩市の財政危機に見る本質的な原因究明と二元代表制の意義の喪失について。


     研究成果報告

    多摩ニュータウン・集合住宅における単身高齢者の居住様態

加藤田歌:東京都立大学 工学研究科 建築学専攻修士課程 上野研究室

  多摩ニュータウンでは高齢化が急激に進み、集合住宅に住む単身高齢者の居住環境をめぐる問題は深刻化しています。本研究では、単身高齢者の生活実態を把握することにより、高齢者の住みやすい生活環境や地域社会を構築し、できる限り自立した生活を維持できる環境を整備するための知見を得ることを目的としました。この研究は、アンケート調査データの分析と訪問調査で構成されています。前者では地域・外出頻度・家族構成に注目して分析を行い、多摩市に住む高齢者の全体像を把握することができました。後者では集合住宅に住む単身高齢者のご自宅に伺い、室内のマッピング調査と居住歴・生活の様子等のヒアリングを行いました。各事例について生活行動や日課を整理し、部屋の使われ方・しつらえとあわせて分析することにより、単身高齢者の居住様態を詳細にとらえることができました。

     多摩ニュータウンのコミュニティセンターにおけるフリースペースの利用実態

松生明子:東京都立大学 工学研究科 建築学専攻修士課程 上野研究室

多摩市では地域施設整備の一環としてコミュニティセンターが整備されています。同センターは予約や団体登録が必要なスペースと、予約の有無等制限のないスペース(フリースペース)で構成されています。フリースペースは誰でも利用可能なため、コミュニティセンターが地域施設としての役割を担う上で重要であると思われます。

本研究では、このフリースペースの利用実態を明らかにし、今後のコミュニティセンターのあり方に関して知見を得ることを目的とし、観察調査とアンケート調査を実施しました。その結果、施設構成や立地条件の相違により利用状況が異なることが明らかになりました。また、フリースペースの利用実態を整理し、利用者像を抽出することで、フリースペースの重要性が示されました。コミュニティセンターを計画する際には、フリースペースを主目的とする来館者も考慮する必要があると言えます。

    住宅地における住居侵入盗の発生実態と空間構成との関係

福本哲二:東京都立大学 工学研究科 建築学専攻修士課程 上野研究室

近年わが国では、住宅地における凶悪犯罪が増加し、防犯に対する関心が高まっています。都市レベルを対象とした犯罪発生実態の研究や、建築物単体での防犯に対する調査はありますが、地区や街区の構成までを含めた研究は十分になされていません。そこで本研究では、住宅地において多発している侵入盗に着目し、侵入盗の発生と住宅地の空間構成との関係の解明を目的としました。

対象地域は、計画住宅地である多摩ニュータウンを含む多摩市。侵入盗発生の実態と空間的要素を捉えるにあたり、多摩市全体から住宅までを段階的に見るため、二つの段階で分析を行いました。まず、多摩市における侵入盗の発生実態と市街地要因を分析し、次に特定の侵入盗多発地区を抽出し、その地区における現地調査を行い、地区、街区・街路、相隣関係、住宅、という4つの空間段階に分けて、侵入盗発生と空間構成の関係の解明を行いました。

 

    街づくりに対する学生参加の効果について

   〜クリスマスイベントと商店会の顧客満足度調査〜

田中隼:中央大学 総合政策学部 細野ゼミナール

 主張:学生が参加する街づくりの事例を基に、学生でしか社会に与えることのできない効果を提案しました。

その@《羽村市中心市街地活性化プロジェクト》

羽村市中心市街地プロジェクトとは、顧客満足度調査です。私たちは市役所と連携し、駅近辺の東口商店会の活性化を手がける第一歩として、ご来店されるお客様を対象に、学生が作成から分析まで手がける顧客満足度調査を行っています。

そのA《Jingle Triangle Bell Festival 2003》

「学術・文化・産業ネットワーク多摩 学生委員会」として多摩地域に点在する他大学生と連携を図り、地域活性化イベントを行っています。「クリスマスブランドを多摩へ」をテーマに、クリスマスイベントを多摩センター・八王子市・立川市で企画し運営しています。今年で3年目であり、メディアやデザイン技術を生かし、学生でしか手がけることのできないイベントに取り組んでいます。

    都市高齢者の生活実態調査から高齢時代の健康づくりとコミュニティ活動を考える

高橋俊彦:東京都立大学 都市科学研究科 博士課程 星研究室

 多摩市の在宅高齢者1.3万人の生活実態アンケート調査(平成139月)で、健康を規定する要因間の関連性と構造を、統計手法(共分散構造分析)を用いて解明しました。健康を規定する要因として、@主観的健康感・生活満足感 A運動・生活習慣 B趣味や友人近隣コミュニティ活動・精神的社会的ネットワーク C住宅経済家族環境など、4要素で規定されることが判明、定量化できました。

今後の高齢社会に役立つ新しい健康(寿命)指針として、主観的健康感が醸成でき、閉じこもらずコミュニティ活動や人間関係深化・文化活動など主体的な役割を持つことを個人が認識するだけでなく、生き甲斐づくりを増幅する新しいライフスタイル確立を目指した行政施策に反映させることも、市民社会構築の礎にもなるという展望が得られました。

 新しく健康増進法が施行され、地方計画が続々と作られていますが、多摩ニュータウンでも主観的健康感醸成・コミュニティ活動推進の重要性を取り入れた健康条例づくりを進めましょう。