第5回研究大会


平成13年11月17日(土)10:00〜16:30 都立大学国際会館で第5回研究大会が行われました。これはシンクタンクとしての学会の将来を彷彿させる兆しをみせた大会であったと言えます。大会は、午前のシンポジウムと午後の自由研究発表、学生部会報告の3本立てで行われ、合間に各研究部会の紹介が行われました。

今大会の特徴は、複数の若い研究者が自主的に自由研究発表に応募してくれたことです。このことは多摩ニュータウンを研究のフィールドとする若い研究者の増加を意味し、地域学としての多摩ニュータウン学会の裾野が拡がりつつあるという誠に喜ばしい現象です。

また、学生部会の報告は3本とも個性あふれるものでしたが、その中でも中央大学総合政策学部細野ゼミの「多摩センターにおけるイベントの効果」は、単なる報告ではなく、分析と提案が一緒になった、まちづくりイベント実践計画です。多摩センターの問題点に対する分析から始まり、学生主催によるイベントの効果と多摩クリスマス・イベントの提案で、大会後すぐの12月1日、2日に行われ、多数の市民が参加、提案の正しさが証明されました。

若い研究者や学生たちという、明日の多摩ニュータウンの担い手が育ってきたことは、この5年間の多摩ニュータウン学会の活動がようやく芽を出してきたことの嬉しい証明ということができるでしょう。                          筆頭理事 田一夫



多摩ニュータウン学会 第5回研究大会プログラム

10:00  開会宣言
10:10  シンポジュウム:信頼と連携のネットワーキング
           〜新しい都市コミュニティの形成を目指して〜
12:00  昼食
13:00  多摩ニュータウン学会 各部会活動の紹介
      まちずくり部会・情報ネットワーク部会・コミュニティ部会・
      スマートグロース部会・共育部会(新設)
13:30  自由研究発表(応募による)
15:10  休憩
15:20  学生部会報告
      東京都立大学・多摩大学・中央大学
16:20  閉会


     第1部 シンポジュウム

信頼と連携のネットワーキング
〜新しい都市コミュニティの形成を目指して〜

 ポストバブル時代における魅力ある地域社会づくりや、生涯学習時代における大学の存在意義を再構築するにあたっては、従来の価値観や仕組みだけでは通用しません。産官学NPOが連携してその強みを持ち寄り、課題解決や新しい価値創造に挑戦していく時代になることを見越して、「学術・文化・産業ネットワーク多摩準備会」(以下「ネットワーク多摩」)が2000年6月に発足しました。そのねらいと動向について、シンポジウム出席者各位の論旨をまとめてご報告いたします。

パネラー:松尾澤幸恵氏(稲城市教育長)
       石峯ひろみ氏(丸紅ネットワークシステムズ株式会社)
       生田茂氏(東京都立大学工学研究科教授)
       齋藤裕美氏(多摩大学経営情報学部教授)

コーディネーター:細野助博氏(中央大学総合政策部教授)

 

●細野氏

多摩ニュータウンは大転換期にある。バブル崩壊で地価が下落し都心回帰が進む一方で、都や公団がニュータウン開発事業から手を引きつつある。ニュータウンはじめ多摩地域の魅力を構築するには行政頼みではなく、地域に立脚する大学・企業・NPOが自治体はじめ行政と連携して新しい価値を創造していかねばならない。ネットワーク多摩はその趣旨から発足し、現在4つの部会で施策を検討している。小中高校と大学の人的交流や設備資産の有効活用、まちづくりや産業活性化に向けた知恵の集積と活用、生涯学習社会における新しい学びの仕組みと「場」の提供など、いずれも大学間連携はもとより企業・NPO・自治体が手を結び、柔軟にその強みを発揮し合って地域に向き合うことが求められている。

●松尾澤氏(第一部会「教育・研究支援部会」に参画)

2001年、都に吸収された多摩教育研究所の所長として、課外授業に十分な人員を投入できないことや教育現場に十分対応できない教員のスキルアップの必要性など、教育現場の様々な問題に悩んでいた。新聞でネットワーク多摩の構想を知り、直接事務局を訪問し、いろんなことができるのではないかと話すうちに次第に欲が出てきた。そこで多摩地域の教育長会議に事務局の方と細野教授にその構想を発言していただき、かなり好意的に受け取られた。今は稲城市教育長として側面から大学連携の具体的な方策に取り組み始めている。

●石峯氏(第二部会「産官学民連携部会」に参画)

弊社のネットワーク多摩における位置付けは、唐木田駅の近くに丸紅のデータセンターがあり稼動以来多摩の住民であり、現在は社外に拡販していること。またそのデータセンターが入り口となり、都内、海外まで光ファイバーで繋がり、ISPにも繋がっている。ネットワーク多摩の参加大学が個々で繋げている回線等は纏めた方が安価ですむ。ただし重要なのはコンテンツであり、その内容について現在検討しているが、地域住民のニーズに基づくコンテンツ作成が必要と思う。とりあえず、有志校による実証実験を行うべく、検討を進めている。

●生田氏(第三部会「生涯学習支援部会」に参画)

第三部会は四つのワーキンググループを創って活動している。その第四ワーキンググループ、市民と協働で創る生涯学習の取り組みについて報告した。お仕着せの講座に参加して講師の話を聞くだけでなく、これからは、市民と大学や自治体が一緒になって、自分たちの学びたい講座を企画し、準備し、実施する。こうした取り組みを行うこと、それ自体が「生涯学習」である。

●齋藤氏(第四部会「大学間連携部会」に参画)

多摩そごう閉鎖時(2000年7月)に、多摩エリアの大学が共同でフロアを借りる話で盛り上がった。現在、ネットワーク多摩の参加大学は45大学に増えたが、学生の交流が出来る拠点の整備と大学間での単位互換を実現したい。また教材の素材の共有化など出来るところから実行したい。


     第2部 自由研究発表

時間貯蓄制度からみる都市コミュニティの形成
〜タイムダラーと地域通貨との比較を通じて〜

東洋大学大学院 孫 彰良

 本報告は地域住民が持つ生活の諸ニーズに対し、他の住民が持っている技能や知識や時間などをサービスとして提供することにより、相互扶助が複線化、継続化することにより都市コミュニティの再生を考えることを目的としました。

 その手法としてこれまで行われてきた時間貯蓄制度は、必ずしも普及していません。先行調査を分析すると、協力者本人が利用できるまでに長いタイムラグがあること、将来のサービス提供が必ずしも保障されないこと、需給にミスマッチが起きる可能性があるなどの短所があり、これらが時間貯蓄制度の普及を阻んでいると言えるでしょう。

 そこで、これの欠点を補完する手法として、世代間にわたらず、現時点で異世代間で時間を相互に使い合うタイムダラー制度、及び互いに助けられ支え合うサービスや行為を交換するシステムとしての地域通貨制度を提案します。それらの特徴を比較すると、三制度はそれぞれに補完し合う部分があります。地域のニーズは多様化・複雑化しており、それに対応する制度として、これら三制度を連携することにより、都市コミュニティの再生に役立てる可能性があると言えるでしょう。

多摩ニュータウン在住の子どもの生活時間

東京学芸大学大学院 志茂 和賀子(発表者)・大竹 美登利

 人間関係を作れない子ども、学びからの逃避など、現代の子どもたちの諸問題がさまざまなところで語られています。本研究では、東京の典型的なサラリーマン家庭が住む多摩ニュータウンにおける子どもの生活時間の実態をとらえ、そこから今日の子どもたちの生活の問題を探ることを目的としました。

 多摩ニュータウン在住の323世帯の全員を対象に、2000年10月1日から15日の平日、土曜、休日の3日間の時間を調査したデータのうち、本報告では0歳児から高校生までを分析しました。

 その結果、@家事的時間や学業時間は年齢が高くなるにしたがって増加し、余暇的時間は減少すること、A平日・土曜・休日別では、学業時間が減少する土曜・休日は家事的時間や余暇的時間が増加すること、B「一緒に居た人」別では、就学前では母親を主とする家族と過ごす時間が長く、年齢が高くなるにつれ知人や一人の時間が長くなること、C休日では、3歳未満から小学生では家事や余暇を家族と行う時間が多く、中・高生では一人の時
間が多いことが明らかになりました。

情報と住民参加の可能性について 〜多摩ニュータウンの調査から〜

    駒澤大学大学院 白男川 尚(発表者)・渡辺 裕一

 多摩ニュータウンでは、NPO活動等の住民参加活動が盛んに行われています。しかし、そのような活動の情報が住民に伝わっていないのが現状であると考えられます。

 そこで本研究は、住民の地域情報のとらえ方を明らかにし、その情報と住民参加の関係を検討することを目的として、多摩ニュータウンN町に在住する住民を対象に行いました。

 今回の調査では、「市の広報」「コミュニティTV」「コミュニティFM」「ミニコミ誌」「地域の回覧」「地域の掲示板」「市のホームページ」等を情報源として調査しました。

 NPO団体等の情報発信方法は、インターネットを利用したものに偏る傾向がありますが、今回の調査の分析結果からは、活字による情報源に比べてインターネットからの情報を受け取る人が少ないという問題が明らかになりました。このような現状をふまえたうえで、NPO団体等は情報発信方法を見直す必要があるのではないかと考えます。

 地域情報をどのように捉え、分析に用いるかという点と、他の地域との比較をすることが必要であるという点が今後の課題です。

 最後に、調査にご協力いただきました、多摩ニュータウン住民の方に心から感謝致しま
す。

協力の習慣を形づくるものは何なのか
〜国内における共有資源管理のネットワーキング事例より〜

中央大学大学院 総合政策研究科博士課程
プロジェクト・ブレーン(株)主任研究員 中庭 光彦

 本発表では、共有資源管理の考え方ならびに、その多摩ニュータウン居住者の社会関係ネットワークへの応用可能性を紹介しました。この中で、多摩ニュータウンとは一見無関係に思われる長崎県対馬、京都府伊根・網野町の漁業者の共有資源管理事例と、「総有」「共有」という共同所有権の考え方を紹介し、それが、多摩ニュータウンという共有資源をいかに活かしていくかということを考えるうえで有用な視点を提供してくれることを示しました。

 多摩ニュータウンの社会関係ネットワークを共有資源として子どもの世代まで残すならば、「参加」の次に、程度の差はあれ様々な資源のコントロールが求められます。このためには、居住者が多摩ニュータウン地域全体に責任をもちコミットするという「総有的」秩序感覚が必要となります。これに対し「地域への愛着はもちたいが、近隣関係は最小限にとどめたい」という「共有的」感覚が生む居住者側の“参加のジレンマ”は対照的です。このギャッ
プを埋めるための制度設計が今後の課題となるでしょう。

地域住民との交流を軸にすえた牧場経営から見えてきた多摩ニュータウンの課題
〜自然破壊の進行と多摩ニュータウン内での営農の意味〜

 多摩ニュータウン鈴木牧場経営 鈴木 亨

 自分の仕事である酪農を多摩ニュータウンに位置づけたい気持ちで、多摩ニュータウン学会のドアをたたいたりしました。最初はがむしゃらに自分の存在をアピールすることに努力しているなかで、近くに住む多摩ニュータウン住民との交流を試み、その一つとしてメーリングリストを使った地域住民との会話を始めました。また、多摩ニュータウンのそばで酪農をしていることを多くの方に知ってもらいたいと情報を発信し、少しずつ成果があがっています。

 そんななかで、自分の住む堀之内の変貌を感じてきました。多摩丘陵も残り少なくなり、自然緑地や里山の減少が進行するという面では、堀之内寺沢も例外ではありません。このまま何も考えないで進んでしまうと、多摩丘陵の自然がなくなってしまい、農業すらもできなくなります。そんな環境にはしたくありません。この地域では自分ひとりかもしれませんが、なんとか多摩丘陵の自然を保つ取り組みをしようと思い、自分なりに発信しつづけていると、けっこう反応が返ってきています。多摩ニュータウンにはいろんなNPOや地域活動をしている人たちがいて、そんな人たちが里山保全の活動に関わるようになってきました。
 牧場に地域の幼稚園や小学校の子どもたちが牛を見にやってきます。多摩丘陵の自然や牧場の良さを知ってもらうだけではなく、人とかかわっていける多摩の自然を地域の人たちで守り育てることが必要だと思います。


     第3部 学生部会報告

 学生部会は運営企画も学生が行っています。今回は各大学からゼミの研究発表をすることになり、都立大学、多摩大学、中央大学がそれに応じてくれました。

●東京都立大学 大学院 都市科学研究科の高橋俊彦さんは、多摩ニュータウンは高齢者や障がい者に配慮したバリアフリーの街と言えるかどうか、都市研チームで実際に街を歩いて調査した結果を発表しました。

 手すりの高さ、階段や入り口の段差、出口が道路に面していて危ないスロープなど、身近なところに潜む危険物をスライドで紹介しました。また、手すり横に居座る若者や自転車のスピード出しすぎなど、バリアはハード面だけではなく意識面にも見られるという意外な実態を報告して出席者の注意を促すとともに、すべての人に区別なく暮らしやすい街づくりにつながるバリアフリー推進の必要性を提唱しました。

多摩大学 齋藤ゼミは、今年で2回目になる高校生のデジタルムービーコンテストについて、イベント運営方法と結果などを発表しました。

 特に今年は大学生にまで対象を広げたこと、同じ高校から繰り返し応募があって、広がりが生じていることなどを、実際の受賞作品などを紹介しながら解説しました。

 この紙面では動画作品をご紹介できないのが残念ですが、応募作品はなかなか見ごたえのあるものでした。

●中央大学 細野ゼミは、「札幌よさこいそーらん祭り」や多摩センターの祭りイベントなどの市民に対する効果を調査し、学生主催のイベントの意義を発表しました。

 今年は、多摩センター駅前におけるクリスマス・イベントの主役とも言えるセンターランド・ツリーを人工的なオブジェから再びモミの木に戻すと同時に、学生が自主的にイベントを企画立案し、実際の運営にも関わることになったことを報告しました。

 地域にデビューし、地域貢献と地域への愛着を新たにした一連の動きは、ネットワーク多摩の趣旨そのものでもあります。

 学生部会が発足して2年たち、学生同士の交流も生まれてきています。次の世代にいかに活動をつないでいくか、テーマの設定をどうするかが、今後の課題です。

            紹介コメント:学生部会担当理事 多摩大学教授 齋藤裕美